作り上げてきたもの

『はぁ…、』

ついに明日から始まる。ここに掃除のバイトの面接を受けた日から今まで、いろんなことがあった。たった一ヶ月だったのに。いろんな感情がぶつかり合って、皆で試行錯誤して、<ロミオとジュリアス>を作り上げた。今まで、公演を皆で作り上げるなんてしたことがなかった。差し出された台本を練習して、他の役者と合わせるだけ。皆で意見を出しあったりなんてことはまずなかった。だからこそ、今がどれだけ充実した毎日を送っているか知ることができたんだ。

『幸せ、なんだろうなぁ。』

中庭から見上げる夜空は、星が散りばめられていてとても綺麗だった。あの頃の夜空はこんなに綺麗だなんて感じることが出来なかった。真っ暗で、何も見えなくて、何もなくて、ただ先が見えない道を進んでいた。

「何黄昏てんの。」

『いっ、至さん!?』

「こんな時間に外に出るなんて風邪ひくよ。」

ふわり、と肩にかけられたのは少し大きめのパーカーだった。わざわざ持ってきてくれたのかな。

『至さんこそ、風邪ひいちゃいますよ。こんな時間まで起きてるなんて、ゲームでもしてたんですか?』

「まぁそんなとこ。冷蔵庫漁りに行こうかと思ったらかえでさんが暗い顔してたからさ。」

『昔のことを考えてました…。』

「前の…劇団のこと?」

『はい。こんな風に団員と一緒に公演を作り上げていくことなんてしたことなかったんです。与えられた台本を読んで、個々で練習をして、全体練習の時に合わせるだけ。悪いところは主宰が指摘して直すだけだったんです。』

「そうだったんだ…。」

『だから、皆で試行錯誤して練習をしている姿を見て羨ましいと思ったんです。私もこんな風にありたかったって。』

「また舞台に立ちたくなった?」

『わからないんです。とにかく演劇から、あの舞台から逃げたくて。でも、結局どんな形でも戻ってきちゃうんですよね。』

逃げても、またこの世界に戻ってきてしまった。私はきっとこの世界から逃げる事は出来ないんだ。

「こんなこと言うのは良くないんだけどさ、俺はかえでさんが舞台を降りてくれて良かったって思うんだ。」

『え?』

「だって、そうじゃなきゃ今こうやってかえでさんと話とかしなかったかもしれないし、この劇団すらなかったかもしれないでしょ。」

『至さん…、』

「不謹慎でごめんね。ここにいてくれてありがとうかえでさん。」

『もう…っ、至さんっ、なんでそんなこと言うんですか…っ、』

「泣かないでかえでさん。」

『泣いてないです…、まだ…、』

「ははっ…、まだ、ね。じゃあ千秋楽までにはかえでさんを泣かせられるように頑張ろうかな。」

『そんなことに頑張らないでください…!…ふふっ、………明日から頑張りましょうね至さん。』

「うん。」

まだ千秋楽は売り切れてない。だけど、皆なら大丈夫。私はただ皆を信じるだけ。