駆け抜ける毎日
「い、いよいよですね!私の方が緊張して足ががくがくしてきました。」
『し、支配人さん…緊張がうつるのでやめてください…っ!』
「二人共落ち着いて。お客さんの入りは?」
「テレビの宣伝のかいもあって、上々です。」
昨日のゲネでは小さなミスが気になったけど、今の皆ならきっと大丈夫だ。万が一ミスをしても切り替えられる強さがある。もう私達は成功を祈ることしか出来ない。
「皆、初めてを楽しんでね。」
『成功なんかよりも皆が楽しんで演じることが出来ればそれが一番だと思う。皆なら大丈夫だよ。』
「はい!」
「っす!」
「わかった。」
「楽しみたいね。」
「ワキワキするヨ。」
『ワキワキ?』
「ワクワク、ね。その調子。」
「開演五分前でーす!」
五分後、始まりの音が鳴った。
***
「"そもそも僕は肉体労働派じゃないんだ。山登りなんて、もう金輪際ごめんだからな。"」
「"ごめんごめん。次は僕がジュリアスのために仮死薬の材料を取りに行くよ。"」
「"あんなことがそうそう何回もあってたまるか。"」
朝日を背にした旅立ちで終幕。幕がゆっくりと降りていく。そしてその直後には満開の拍手が降り注がれた。
「…。」
「……これ、拍手だよな?」
「お客さん。」
「すごいな。」
「嵐みたいネ…。」
「皆、ぼーっとしてないで!カーテンコール!」
「は、はい!皆、行こう!」
こんなに拍手をもらえるなんて思わなかった。大手と比べたらまだまだ知名度も無くて、駆け出しの小さい劇団だ。それでも皆の演じる姿を見て拍手をしている。こんなにも嬉しいことはない。
『お姉ちゃん…。』
「ん?」
『拍手をもらうことってこんなにも嬉しいことだったんだね。』
「そうだね…、」
沢山の拍手の中で、春組の第一回公演初日の幕が閉じた。初日が終わるとそこからの日々はあっという間に過ぎていった。連日の公演に、夜遅くまでミーティング。皆の体は疲れ切っていた。
「皆、夜食持ってきたよー!」
『あれ、皆寝てる…?』
「連日の公演に、夜遅くまでミーティングしてるからね。」
『そうだよね…明日もあるから今は少しでも休んでね………。』
頑張ってる皆の為に、私達は出来る限りのことをしなきゃ。あとはチケットを売り切ることだけなんだけど…。
「監督!副監督!大変です!!」
「!?」
『わわっ!』
「ふぎゃ!?な、なんですか!?」
ばぁん!と勢いよく稽古場のドアを開けたのは支配人さんだった。支配人さんは驚くほど慌てていて、何事かと心配した。
「せ、せせせせん!」
「せんべい?」
「せん、せせせせん!」
『先生?』
どれも違うらしく支配人さんは首がもげそうなほど首を振っていた。お姉ちゃんはまず一回落ち着くように深呼吸をするよう支配人さんに勧める。
「………千秋楽、完売しました。」
「え!?それ、本当ですか!?」
「たった今、最後の一枚が売れました。」
「千秋楽が…完売した…。」
「これで、劇場はなくならないってことっすよね…?」
「そうだよ、皆!皆のおかげだよ!」
「やったああああ!」
「よっしゃああああ!」
『…。』
「かえで?どうしたの?千秋楽完売だよ?嬉しくないの…?」
『完…売…、』
「うわぁっ!?かえで!?」
全然実感がわかないのに、足から力が抜けてしまった。へなへなと床に座り込むとお姉ちゃんが驚いた表情でこちらを見ている。
『完売…そっかぁ、完売したんだ……そっか……………っ、』
「かえで…。」
綴君も思わず真澄君を起こし喜んでいるし、シトロン君も至さんに抱きついて喜んでいた。至さんは一瞬表情を曇らせていたけど。
『…。』
「無事に千秋楽は完売。もう何も心配することは何もないよ。千秋楽まで残り二日、四公演。皆悔いのないようにやり切ろうね。」
「はい!」
「おお!」
「うん。」
「がんばるネ!」
「…。」
皆で作り上げた公演を最後まで、最高の状態でやりきりたい。こんな風にワクワクした気持ちは久しぶりだ。私は千秋楽まで皆を全力でサポートすることを改めて誓った。