副監督として出来ること

『至さん。』

「ん?何?かえでさん。」

『着替える前にちょっとだけいいですか?』

「うん。」

公演の準備が始まる前に至さんをこっそりと呼び出した。誰もいない個室へと連れて行く。

『お椅子に座ってください。』

「わかった。」

『失礼しますね。』

私は椅子に座った至さんの前に跪き、至さんの足首を持ってありとあらゆる方向へゆっくりと傾けた。至さんの表情をじっと見ると、ある方向に曲げた時に少しだけ顔を歪めた。

『この角度が痛いですか?』

「気付いてたんだ。」

『昨日、シトロン君に抱きつかれた時足を庇ってましたから…。気づくのが遅くなってごめんなさい…。』

「俺が隠してたんだから謝らないで。この事は他の人に…、」

『言ってないです。本当は言うべきなんですよ…、』

「ごめんごめん。でも、あいつら気を遣っちゃうだろ?俺のことじゃなくて、公演に集中してほしいから。」

『無理したら怒ります。』

「嫌いになる?」

『ば、場合によっては…、』

「ははっ、大変だ。」

『笑い事じゃないですからね!』

私は至さんの靴と靴下を脱がして、素早くテーピングを施した。これはあくまでも応急処置だ。足を酷使し続ければいつか限界がくる。

『はい、これでとりあえずは痛みが抑えられるはずです。』

「ありがとうかえでさん。」

『無理しちゃダメですからね…、』

「うん、善処する。」

この言い方は信用できない。本当は病院に行ってほしいんだけど、きっと彼は行かないだろう。足に負担がかからないようなるべくサポートしなければ。

「ふっ、変わったねかえでさん。」

『何がですか…?』

「前より頼もしくなった。」

『ま、前は頼りなかったですか…!?』

「うん、プルプル震えてうさぎみたいで、こっちが支えてあげなきゃって思ってたのに…、いつの間にかこんなに頼もしくなった。」

『至さん…。』

「副監督、千秋楽までサポートよろ。」

コミニュケーション能力もなくて、上手く言葉を伝えられなくて、自分に自信が持てなかった。春組の皆を支えたいのに空回りして、役に立てない。副監督なんて言葉はほとんど飾りのようなものだと思ってたのに、こうして頼ってくれる人がいる。だったら私はそれに応えるだけじゃないか。

『もちろんです!!』

私は私なりに頑張るだけだ。