散った先にあるもの
「いやぁ〜すみませんね毎日毎日!」
『仕事ですから。』
もうかなり年季の入った舞台を掃除し続けて一年。この一年間、今立っている舞台が使われたことは一度もない。目の前に広がる客席に観客が入ったことも、もちろん一度もない。目の前でヘラヘラと笑うこの男は松川伊助。この劇団、MANKAIカンパニーの支配人だ。劇団、とは言えないか。団員が一人もいないのだから。かつてはこの劇団も栄えていた。毎日人が出入りし、公演を続け、その演技に心を奪われていた。しかし、いつの日からかこの劇団は廃れていき、いつの間にか何もなかった。ああ、この劇団は私と同じだ。そう思った。
それでも、ここだけは守りたかった。団員が一人もいなくなってしまっても、ボロボロなってしまっても、失くすわけにはいかなかった。この劇場は私の父が守っていた劇場だから。
『最後の居場所だもの…。』
「何か言いました?」
『っいえ、なんでも、ありません…。支配人さんはこの劇団を復活させる方法を考えててください。ここの掃除はやっておきますから…。』
「もちろんです!この劇団を…またかつてのように!!」
気合はたぶんあるんだろうけど、支配人さんは少し空回りしてるみたい。って言っても私が出来るのは掃除くらいだから何も言えないのだけれど。支配人さんが立ち去ったあとも掃除を続けた。埃を一つも残さず、いつでも使うことが出来るように。
『…。』
舞台の真ん中に立って目を瞑ると、瞼の裏に様々な光景が広がった。鳴り止まない歓声と拍手。キラキラした瞳に頬を伝う涙。公演を行う度に感じるのは途方もない期待と言う名の圧力だった。公演が終われば、次。そしてまた次。次、次、次。主宰は常に私を公演の主演、もしくは準主演に置いた。そのうち自分に当たるスポットライトに気が狂いそうになり、観衆の目に嫌気がさし、全てを捨てて逃げた。
あれらを全て背負うには弱すぎたのだ。結局、私は舞台に最後まで立つ覚悟がなかった。もう悔しいと言う感情すら最後の公演に置いてきてしまったようだ。それでも父の守っていた劇場に訪れたのは、心の何処かで捨て切れなかった何かに希望を持っていたからかもしれない。
その正体はわからないけれど。