消えたスポットライト

*左京side*


一目でわかった。観衆の歓声、眩しいスポットライトを独り占め、輝かしい笑顔で舞台に立っていたあの面影がもう何もなくても。

例え、世間があいつを忘れようとも、俺はあいつを忘れることはないだろう。



俺の大切な−−−−、



「おい、お前、名は。」

気が付いたら話しかけていた。昔と変わらない色素の薄い瞳が丸く見開かれ、少しだけやつれていることに気づいた。

『誰ですか…?』

期待した俺が馬鹿だった。うまくいかないことに思わず舌打ちする。すると目の前の女は小さく怯え、俺から離れた。怖がらせるつもりは無かったがもう遅い。

餓鬼の頃は"お兄ちゃん"なんて言っていつも俺の後ろをついてきてた。大人顔負けの演技で周りの奴らを驚かせてたな。楽しそうに演技して、その笑顔に救われていた奴らも多かった。俺もその一人だった。

そんな幸せとも言える時間が終わるのはあっという間だった。MANKAIカンパニーは本来女は入ることができない。故にあいつは別の大手の劇団に入ってMANKAIカンパニーを去った。そしてあいつは短い期間で一番の輝きを手に入れた。誰もが魅了された。あいつの演技に。

だが、あいつは大手の劇団を唐突に去った。全てを捨てて。勿論嘆くもの、憤るものもいた。それだけ誰もがあいつに期待していたんだ。数年が経つと輝きを手放した女の影は何処にも残らなかった。数年も経てば忘れ去られてしまう。このMANKAIカンパニーように。廃れて消えゆくものなのだと思い知らされた。

それでもこのMANKAIカンパニーに戻ってきたあいつを見たら、柄もなく希望を持ちたくなった。またあの頃が戻るかもしれないと。

『私が借金を返す!!』

先程までの抜け殻のような瞳は何処へいったのだろうか。その瞳には強い意志が宿っている。ああ、きっと昔から変わっていないんだ。この場所があいつにとっても大切な場所だということ、守りたいと言う想いは。

『なんでも…なんでもしますから!』

ただ、この言葉だけは許せなかった。男相手になんでもするなんざ、冗談でも言うものではない。大切なものを守るためにきっと簡単にあいつは自分自身を差し出せる。そう感じた。あいつが誰かに攫われる前に俺が攫ってやる。あいつを守るのは俺だ。昔も今もこれからも。

守るなんて建前で本当は誰にも渡したくないだけなんだろうな。これは俺のエゴだ。