一万円の缶コーヒー
「…。」
『…。』
「…。」
『…………。』
「迫田。やめてやれ。びびって固まってやがる。」
「すいやせん兄貴!!」
ヤクザ怖い。金髪の男の子怖い。左京さんに呼び出されたと思ったら、左京さんのお付きの人にガン飛ばされてもう怖い。
「お前もそんなにビビるな。こいつは迫田。俺の弟分だ。」
『さ、迫田さん、よろしくお願いします…。』
「しゃーす!」
「おいお前俺にメンチ切った勢いはどうした。」
『あああの時はアドレナリンが…!』
「はぁ…先が思いやられるな。」
あの時は本当にどうかしていたと思う。実は人と話すのはあまり得意ではない。MANKAIカンパニーの支配人さんすら普通に話すまでに一年かかった。そんな私がヤクザさんと普通に話すなんて何年かかるかわからない。余計なこと言ったらきっと頭をぶち抜かれるんだ。
「迫田、お前は席を外せ。別件があっただろ。」
「あいあいさー!」
『あい、あいさー…?』
ヤクザ同士の合図…?私も左京さんの子分(?)になったから使った方がいいのかな。でもヤクザになったわけじゃないからなぁ。うーん、と考えているうちに迫田さんはその場を去った。
「かえで。アレは持ってきたか。」
『あっ、あいあいさー!!』
「………なんだそれは。」
『すっすみませんつい…!頭ぶち抜かないでください…!』
「誰がぶち抜くんだ、誰が。…ったく、別にお前を取って食おうってんじゃねぇよ。普通にしてろ。」
『はい、すみません。これブラックコーヒーです。』
「ん、」
左京さんに手渡したのは缶コーヒーだった。唐突に缶コーヒーを買って持ってこいと言われ、今日は左京さんの元へ訪れた。借金返します!と言った以上私は左京さんに逆らえないのだが、まだ眼球とか内臓とか無事だ。そろそろ持っていかれると思ったのだが…。
「ほら、受け取れ。」
ポン、と渡されたのは一万円。まだ何か欲しいものがあるのだろうか。出来れば物騒なものはやめてほしい。一般人でも買えるものがいい。
『また何か買ってきますか?』
「バカ、珈琲代だ。」
『!?すみませんそんな大量のお釣り持ってません!!頭ぶち抜かないでください…!』
「だからそれやめろ。別に釣りはいらねぇよ。そうだな…給料だと思えばいい。」
『いやいやお返しします…!借金増えちゃうじゃないですか!』
「必死だな…。」
1000万円の借金はどうにかするけどこれ以上は増やさないでください!!売る内臓が増えます!!と訴えても左京さんは話を聞いてくれないどころか、もっと自分を大事にしろと説教された。解せぬ。