虎の猛攻

『うーん、もう少しやっぱハロワとか行くべきかな…。』

コンビニから貰ってきたバイト雑誌を読みながらMANKAIカンパニーまでの帰り道を歩いていた月が上りきっているある夜の日。

『バイトだけじゃ借金返せないものね。』

ちゃんと就職して安定したお給料貰うのが一番良いだろう。しかし今更こんな女を雇ってくれるところはあるだろうか。

「おねーさん仕事探してるの〜?」

『ひゃっ、』

「あーごめんごめん驚かせちゃった?お兄さんいい仕事先紹介できるよ!なんとお話しするだけでお金がもらえちゃうお仕事!」

突然私の前に現れた男の人はニマニマと笑い私の腕を掴んだ。ゾッとして思わずその手を強く振り払う。

『っ、間に合ってます。』

「そんなこと言わずにさ〜!一回来て見てよ!案外ハマるかも!おねーさん美人だし、スタイル良いしさ!」

『離してください…!』

もう一度腕を掴まれ、今度は強引に何処かへ連れて行くつもりだ。勿論行く先がロクでもないところだということは私でもわかる。グッと足を踏ん張るがあまり意味はなかった。どうしよう、抵抗出来ない。やだ、気持ち悪い。誰か−−−−!

「ねぇ、ナンパにしてはスマートじゃないんじゃない。」

『!!』

掴まれていない反対の腕が何者かによって掴まれた。でもそれは少し優しくて、冷たい手だった。振り向けば前髪を上げて虎の絵が入ったスカジャンを着たお兄さんだった。

「てめぇには関係ねぇだろ。」

「あ?クソザコがうるせぇよ。死ね。」

スカジャンのお兄さんの迫力はなんというか恐ろしかった。全ての憎しみを込めたような感じだ。何か嫌なことでもあったのだろうか、と第三者が心配するレベル。

「ちっ、」

そんなスカジャンのお兄さんに怯んだ怖い人はその場を立ち去る。私はすかさずスカジャンのお兄さんに頭を下げた。

『あ、の、助けて、いただいて…ありがとうございました…。』

「別に。ただむしゃくしゃしてただけだから。気にしなくていいよ。」

スカジャンのお兄さんの声はだんだんと遠くなるのがわかった。顔を上げるとスカジャンのお兄さんはスタスタとその場を去ろうとする。

『あの、何かお礼をさせてください!』

「は?別にい…マジか。ソフィア姫クリソツかよ。」

『そふぃ…?くり…?』

振り向いたお兄さんは一瞬不機嫌な表情だったが、私の顔を見るなり驚いた表情に変わった。そしてなんだかわからない言葉を呟く。

「魔法のカードちょーだいとは言えないしな…。これ、押してみて。ここまでくるともう何でもいいから。」

『え?え?ここですか?』

「うん。早く。」

『す、すみません!…はい。』

スマホの画面を見せられ、何だか画面上のボタンを押すよう催促される。私はお兄さんの言う通りにボタンを押した。すると画面はキラキラと光り輝く。

「…よっしゃ!!キタコレ!!限定SSRソフィア姫ゲット!」

『き、きたこれ?』

「ありがとう君のおかげで救われた。破産は覚悟してたのに。女神かよ。」

『ボタン押しただけですよ…?』

「じゅーぶん。最高のお礼だよ。」

『お役に立てたのなら良かったです。改めて助けていただいてありがとうございました。』

何だかよくわからないが、お兄さんが喜んでいるのでお礼にはなったらしい。良かった良かった。最後にもう一度お礼を言うと、お兄さんは優しく笑った。

「俺こそありがとう。」

その後は少しだけお兄さんにMANKAIカンパニーの寮の近くまで送ってもらい、別れた。名前も連絡先も聞かなかったが、また会えたら素敵だなぁと少しだけ夢見てしまった。

今度会えた時は、名前を教えてくれますか?