利己的な答え

「星影花莉様ですね。お迎えにあがりました。」

『はっ、はい?』

急に家の前に高級車が停まったと思ったら強面のおじさんにお迎えと言われた。え、天国へのお迎えかな。に、逃げようかな。逃げられるかな。

「花莉先輩!」

『つ、綱吉君!!まさか綱吉君も処刑台に…、』

「何言ってるんですか!9代目の守護者の方々みたいですよ!」

『きゅ、9代目?』

車の窓から綱吉君が顔を出した。どうやら今から行くのは処刑台ではないらしい。私は車内へエスコートされ、綱吉君の隣に座った。リボーン君も車内に座っている。

「くくっ、花莉様は誘拐だと思われたのですか?」

『す、すみません…。』

ああ恥ずかしい。誘拐だと思って逃げようとしたと話したら9代目の守護者の方に笑われた。髪の長いダンディーなおじさまは呆れているし、本当にすみません。

私と綱吉君は緊張で背筋が伸びっぱなしだった。しばらくすると大きなホテルに着き、9代目がいるという部屋へと案内される。その頃には守護者が増えていて私達は囲まれながら部屋へと入っていった。あまりにも広い部屋に口が開いてしまう。

「こっちじゃこっち。よく来たね、綱吉君、花莉さん。」

「おじいちゃん!」

『おじいちゃん!?』

綱吉君が9代目をおじいちゃんと呼ぶものだから思わず聞き返してしまった。綱吉君も無意識だったのか恥ずかしそうにしている。

「まだそう呼んでくれるとは嬉しいよ。ありがとうツっ君。お茶にしよう。」

9代目の具合はすっかり良くなったようだ。この間会った時よりもずっと生き生きとしていて少し安心した。私と綱吉君は並んでふかふかのソファーに座る。なんだか綱吉君は浮かない顔をしていた。

「あ…あの…9代目…実は話が…、」

「好きにしなさい。綱吉君の人生だ。」

「へっ、」

「おや?ボンゴレのボス継承の話じゃなかったかな?」

「あ…、そ…そうです…!」

綱吉君はボンゴレボスになることを嫌がっていた。その理由は9代目にはわかっていると言う。ユニちゃんが未来で伝えてくれた白蘭さんとの戦いで、綱吉君がマフィアに向いていないことをわかっていた。しかしだからこそ、綱吉君はボンゴレを本来の形に戻してくれるのではという希望を持っていた。ボンゴレは元は大切な人を守るための自警団だったという。初代ボスはむやみな抗争や誰かを傷つけることを嫌っていた。初代がボンゴレリングを原型にしたのも、綱吉君が今のボンゴレを壊してくれると思ったからだ。綱吉君は何故そんなに急ぐのかと9代目に問う。9代目は一日も早く抗争や殺し合いがなくなるはずだと答えた。

「おっとこれでは継いでくれと頼んでいるみたいじゃな。スマンスマン!継承式前日の明日までに嫌なら嫌と答えてくれればいい。」

「で…でも…もし断ったら継承式は…、」

「なーに、そんなものはキャンセルすればいいだけじゃ。平気じゃ平気♪さて、花莉さんじゃが…、」

『あ…、綱吉君聞いていく?』

「えっ、いや…、も…もう失礼します!」

「俺は朝まで話がある。泊まってくぞ。」

「わっわかった…。ゆっくりしてけよ!」

綱吉君は少し逃げるように、帰っていった。そんな姿を9代目はにこにこしながら見ていた。

『すみません、たぶん綱吉君が聞いたらもっと悩んじゃうかもしれなかったので…。』

「いいんじゃよ。花莉さんの答えを聞いてもいいかのう。」

『はい…、私は…、』

ぎゅっと拳を握り、9代目を真っ直ぐ見据えた。私の答えはもう未来で出ている。

『私は、星空の娘<フィリア・デッレ・シエロステッラート>を継ぎます。』

「!!…そうか、理由を聞いてもいいかな?」

『正直、難しいことはわからないんです…。マフィアとかボンゴレとか…私にはまだイマイチピンと来てなくて…。殺し合いや抗争が無くなるのは素敵だと思います。でも、私はただ母が命懸けで繋いでくれたこの力を、大切な人を守るために使いたいんです。』

「…、」

『白蘭さんから聞きました。"星が落ちた日"のことを。私がいなければ一族が滅びることはなかった…。何度も何度も悲観しました。私がいるから誰かを傷つけるんだって。でも、もうそんな自分は嫌なんです。母は私の幸せを願っていてくれた。母の願いを無下にしたくない。私は幸せになりたいんです。』

『私は幸せになるために、星空の娘<フィリア・デッレ・シエロステッラート>を受け継ぎます。そして、母が生前に研究していた、次世代がこの瞳を受け継がなくてもいい方法を私が見つけます。』

これが私の答えだ。誰に何と言われようと幸せになってやると誓った。まだ迷うこともある。私のせいで誰かが傷つけばきっとまた後悔するのだろう。それでも私は進みたいんだ。

『すみません利己的で。』

「いいや、利己的なんかじゃないさ。花莉さんは初代星空の娘と良く似ている。」

『本当ですか…?』

「ああ、聞いた話でしかないが、初代星空の娘も、誰かが傷つくことを嫌い、大切な人を守るためにその力を使っていたらしい。君のようにね。」

私は首にかけているステラリングをぎゅっと握る。初代星空の娘、ネブローサさんに似ているのなら嬉しい。

「継承式の前に君のお披露目をしよう。星空の娘の正装はもう残っていないが、繕っていた者はいる。その方に頼んで君の正装を作ろう。」

『でも継承式は明後日ですよ…?間に合いますか?』

「間に合うさ。採寸をして送っておくよ。別部屋で採寸をしたら夕食を一緒にどうかな?」

『是非ご一緒させてください。』

「良かった。君の好きな男の子の話を聞きたくてね。」

『なっなんで!!…リボーン君!!』

「お前の気持ちなんてバレバレだぞ。」

私は別部屋で採寸を終えた後、守護者の方々と9代目とリボーン君と夕食を共にした。委員長のことを根掘り葉掘り聞かれてとても恥ずかしかった。さあ、あとは綱吉君の答え次第だ。どうなるだろうか。

継承式まであと2日だ。