誰のための星なのか

『ん…、』

朝日の眩しさに目が覚めた。目を開けると、すぐ近くにすやすやと眠る炎真の顔があって思わず飛び起きる。時計を見れば7時前を指していた。昨日からの記憶が全然ない。お風呂に入って、炎真と話しながら皆の帰りを待っていた。部屋を見渡せばすでに全員が眠っていて、私は結局皆の帰りを待たずに寝てしまったのだと理解した。

「ん…花莉…?起きたの…?」

『うん、おはよう炎真。ごめん、昨日寝ちゃったみたいだね。』

「…………ううん、昨日は色々あって疲れてたみたいだから仕方ないよ。起こすの悪かったから皆でケーキ食べちゃった。ごめん。」

『いいよ、皆に買ってきたケーキだし。皆におかえりって言えなくて残念だったな。』

「それはまた今度にとっておくよ。」

炎真は起き上がり、体を伸ばした。それから次々と皆は起き始め、身支度を始めた。私は鞄のそばに置いてあった携帯を開く。しかし何故か画面は真っ暗のままだ。まさか充電が切れてしまったのだろうか。一応電源ボタンを長押ししてみると普通についたので充電が切れたわけではなさそうだった。ならばどうして電源が切れていたんだろう。待ち受け画面になると十数件の着信が入っていることに気づく。綱吉君や隼人君からだ。

「どうしたの?」

『アーデル…、昨日綱吉君達から電話がかかってきてたみたいで…電源が切れてたから気づかなかったんだけど。今更掛け直しても遅いかな。』

「…あとで直接聞いてみたらどうかしら。その方がきっと早いわ。」

『そうだね、ありがとうアーデル。』

私は携帯をしまって、身支度を整えた。幼馴染達は黒いスーツを着こなしていてとても大人びているように見えた。私も会場に行くまではスーツだけれど、たぶん星空の娘の正装に着替えることになるのだろう。準備を終えた私達は継承式が行われる場所へと向かった。

継承式が行われる会場は山奥のお城だった。城をまるごと一つ使うなんて流石大きなマフィアなだけある。会場に着いた私は、炎真達と別れてまず綱吉君達を探した。私は人をかき分けて綱吉君達を探す。するとよく知っている集団をやっと見つけることが出来た。

『綱吉君…!』

「花莉先…輩…っ?」

私に気付いた綱吉君はこちらを向いた。でも、綱吉君の表情は全然明るくなくて、むしろ怒っているような表情だった。綱吉君は私に早歩きで近づき、勢いよく私の両肩を掴んだ。

「なんで…っ、なんで昨日電話に出てくれなかったんですか…っ!!」

『!?な、え…、い、急ぎだったの…?電源が切れてて…っ、』

相当急ぎの用事だったのだろうか。いつもの綱吉君じゃないみたいだ。怒りもそうだけど焦っている。

「昨日…っ、山本が…っ、」

綱吉君の話を聞いて、全身の血が引いた。武君が敵の手によって重傷を負っているなんて。私はなんてことをしてしまったんだろう。

『あ…っ、ご、ごめんな、さい…っ、どうしよう…私、なんてことを…っ、』

「せめて先輩がいてくれたら…っ、」

「やめろツナ。花莉のせいじゃねーだろ。」

「っ、すみません花莉先輩…っ、俺、悔しくて…っ、」

違う、悪いのは私だ。いつ連絡が来てもいいように携帯をちゃんと確認しておけばよかったのに。取り返しがつかないことをしてしまった。こんな大切な時に力を使わないでいつ使うの。

「元気か弟分!!」

「ディーノさん!」

人混みをかき分けてディーノさんがこちらへとやってきた。私はよろりと後ろへ下がり、その場を離れた。準備しに行かなきゃ…。着替えて、コンタクト外して…それで、

『…っ、』

それでどうするの?大切な人のために使うといった力を使えず、私はそのまま星空の娘を継ぐの?ダメだよ、そんな資格ない。継げない。継げるわけがない。

「何を泣きそうな顔をしてるのかなお嬢ちゃん。」

『!?』

「今日はボンゴレ10代目の継承式だというのにそんなに暗い顔では台無しじゃないか。おじさんと一緒においで。」

『や、やめてください…っ、大丈夫ですから…っ、』

私の前に立ちふさがるように立つ長身の男。ニコニコと笑っているけど、雰囲気がとても怖かった。腕を掴まれて引っ張られてしまう。うんと力を入れて抵抗するが、敵うはずがなかった。

『やめてください…っ、』

「おいおい、誰に許可とって、」

「そいつに触ってんだぁ?」

『ディーノさん…っ、スクアーロさん…っ、』

「ひいっ!!」

スクアーロさんは男の腕を捻り上げ、ディーノさんは私の体を支えてくれた。男はスクアーロさんとディーノさんを見ると小さな悲鳴を上げて逃げてしまう。

「花莉、1人でふらふらしてるとあぶねーぞ。」

「馬鹿かぁてめぇは!!ちったぁ自覚持てぇ!!」

『ごめん…なさい…、』

「「!!」」

「どうした花莉、何かあったのか?」

「なんだぁ、言ってみろぉ。」

ディーノは花莉の顔を心配そうに覗き込む。花莉は顔を真っ青しており、今にも倒れてしまうのでないかと思うくらいふらふらとしていた。しかし花莉は心配させまいと首を横に振る。そんな状態の花莉を見て、彼等は花莉を1人にさせるわけには行かなかった。

「準備しに行くんだろ。俺も一緒に行くぜ。」

「仕方ねぇ俺もついていってやる。」

「素直じゃねーなスクアーロ。」

「うるせぇぞ跳ね馬ぁ!!」

2人に気を遣わせてしまった。なんだか申し訳なくなって顔を上げられない。自己嫌悪に苛まれながら私は2人と共に城の中へと向かった。