その罪を継承せし者

「お綺麗です!!」

「ご覧ください姫様!」

『姫様はちょっと…、』

9代目がいる場所までついてきてくれたディーノさんとスクアーロさんにお礼を言って別れた後、私の準備は猛スピードで行われた。沢山のメイドさんに囲まれて私はただただメイドさんの言う通りにした。支度が終わるとあれやこれやと褒められたが全然気分になれなかった。私を公の場に晒せる姿にしてくれたのはとてもありがたい。しかし武君のことを思うと笑えなくなってしまうのだ。

「支度は終わったかな?」

『はい、お待たせして申し訳ありません。星空の娘の正装、ありがとうございます。』

「よく似合っているよ。とても綺麗だ。ヴェネレを思い出すよ。」

『ありがとうございます…。』

「…花莉さん、お友達のことは君のせいじゃない。」

『!!』

しまった、9代目にまで気を遣わせてしまうなんて。暗い顔をしちゃダメだ。笑わなきゃ。

「継承式が無事に終わったら、すぐに車を出そう。大丈夫、君の素敵な笑顔を見たらお友達も元気になるさ。」

『…っ、』

優しく温かい言葉で、徐々に体温が上がってきたような気がした。ぽかぽかとするようなその優しさに涙が溢れそうになる。泣いちゃダメだ。せっかく化粧をしてくれたのに。私は堂々としていよう。終わったらすぐに武君の元に向かう。それが今出来る最善のことだから。

「さぁ、行こうか。」

『はい。』

大きな扉が開かれ、私は9代目にエスコートされながら継承式が行われる大広間へと入っていく。沢山の視線を感じる。怖くて足が竦みそうになるけれど、私は今ただの中学生じゃない。星空の娘<フィリア・デッレ・シエロステッラート>だ。

「噂は本当だったのか。」

「あの星空の瞳…間違いない。」

「顔立ちはヴェネレ様によく似ている。」

「あの髪色は一星様譲りだな。」

「お美しい…。」

怖がらなくていい。この瞳を、私は嫌わなくていいんだ。誇りを持て。

『はじめまして。花莉・メテオーラと申します。どうぞ宜しくお願い致します。』

ゆっくりと教えられたお辞儀をし、にこりと微笑む。すると、割れんばかりの拍手を送られた。9代目を見ると、優しい笑顔で笑っていた。しかし私の挨拶が今回の目的ではない。綱吉君がボスを継承することがこの式の目的だ。綱吉君の方を見ると、少し視線が泳いでいる。いや、泳いでいるというよりも警戒して周りを見ているんだ。ふと、その後ろに視線を向けると委員長とばちりと目が合った。咄嗟に視線を逸らし、ぎゅっと拳を握る。

「これよりT世の時代より受け継がれしボンゴレボスの証である小瓶をボンゴレ\世よりボンゴレ]世へ継承する。」

ついにボンゴレボスが受け継がれる時が来るようだ。私は9代目の隣でその瞬間を見守る。

「では、継承を。」

「受け継いでもらうよ、]世。」

もう受け継がれるという時だった。会場に頭が割れるような音が流れて、思わず耳を手で押さえる。至る所で爆発が起き、騒然とした。9代目の守護者は特殊な結界で私達を守ってくれている。きっと武君を襲った犯人なのだろう。しばらくすると音と爆発は収まった。

「9代目!!ああ!!」

9代目が今の爆発で怪我をしてしまった。そして、ボンゴレの"罪"の小瓶も割れてしまっている。犯人の狙いは"罪"の破壊だったようだ。しかし9代目は様々な対策を打っていた。"罪"は特殊な金庫に守られていて、頑丈なシールドが施されているという。ホッとしたのも束の間だった。

「た…大変です!!金庫が…破られています!!」

「なに!?」

「そんな!!」

なんだかとんでもないことになってきた。破られるはずのないシールドが破られ、"罪"が奪われてしまった。そして、金庫のある部屋から誰かが攻撃してきた。それは9代目の守護者のシールドを貫いてしまうほどの威力。

「7属性の炎で守るなど"罪"の場所を教えているようなもの。」

『嘘…………、』

部屋から出てきたのは、私の大切な幼馴染達だった。

「"罪"は返してもらうよ。この血は僕らシモンファミリーのものだから。」

炎真が手に持っているのは"罪"だった。彼等は"罪"を手に入れるために継承式へ来たのだとアーデルは言う。

「…ま…まさか…山本をやったのって…、」

「そう、僕らだよ。」

「「『!!』」」

「どうしても必要なものだったんだ。力をとり戻してボンゴレに復讐をするために。」

炎真は小瓶の血をリングに垂らした。すると、彼の額には死ぬ気の炎のようなものが灯る。

『炎真…………どうして……、』

絞るように出た言葉なんて、彼の耳に届くはずがなかった。