星屑は大地に落ちた

武君を傷つけたのも、"罪"を奪ったのも私の大切な幼馴染達だったと誰が信じられるというのだろうか。まるで知らない人みたいになってしまった炎真を、私はただ呆然と見ていることしかできなかった。

炎真達の目的はボンゴレへの復讐、そしてマフィア界の頂点に君臨すること。彼等の話を聞けばボンゴレ初代ボスがシモン初代ボスを裏切ったという過去。罪を被せられ、永遠の罪人となったこと。信じられなかった。ボンゴレT世が友を裏切るようなことをするなんて、そんな人には思えない。

「何故初代ボンゴレが我々シモンをこの世から抹殺したかわかるか?それは我々の先祖が持っていたボンゴレに対抗しうる力を恐れていたからだ。」

「それこそが大空の7属性に対をなす、大地の7属性!!!」

「なっ、」

「大地の7属性!?」

「そうだ。この力ゆえシモンはボンゴレの兄弟ファミリーたりえた。そしてこの力ゆえボンゴレに恐れられ裏切られた。この炎はシモンの誇りを取り戻すための炎。」

「お前は間違ってる。お前達の辛い過去も怒りの理由もわかった。だが人を傷つけることな誇りを取り戻すことじゃない。」

綱吉君の言う通りだ。シモンの皆が今までどれだけの苦しみを味わってきたかなんてきっと私達には理解できない。それだけの苦しみを味わってきたのだと思う。それでも誰かを傷つけていい理由にはならないんだ。

「アーデルハイトさがっていて。僕1人で充分だ。ツナ君と守護者を潰すのは。」

「てめーじゃ無理だぜ。」

『っ、……や、嫌……、』

隼人君、笹川君、クロームちゃん、委員長は戦闘態勢に入るが、炎真の力で壁に叩き潰されてしまう。そして4人の体は宙に浮き、全員が中心に向かって飛んでいく。

『やめて!!!』

「やめろ!!」

私と綱吉君の声など聞こえていないように、4人はぶつかり合った。それでも4人は立ち上がろうとするが、炎真の力で床に潰されてしまう。まるで何かが彼等を押し潰すように。そしてついに彼等のボンゴレリングまでが壊されてしまう。

私がなんとかしなくてはいけない。わかってる。それでも炎真は私の大切な幼馴染なんだ。彼に武器を向けたくない。彼と戦いたくないよ。

綱吉君も応戦するが、壁に叩きつけられ為すすべがない。更にはこの力もまだ7分の1だという。ヴァリアーとディーノさん達も戦おうとしていたが、アーデルの力によって阻まれた。

ダメ、こんなの夢と同じになってしまう。嫌だ、どうして。私はただ、皆に笑っていてほしいだけなのに。

『お願い…っ、もうやめて…っ、』

私は首にかけた杖を手に持ち、元の姿へと戻した。杖を持つその手は情けないくらい震えている。倒れる皆を守るように私は炎真の前に立ち塞がった。

「花莉、もうすぐ終わるから待ってて。」

『炎真…っ、なんでこんなこと…っ、』

「花莉、君も騙されているんだよ。何故星空の娘とボンゴレが繋がっているか君は知らないからボンゴレの味方をするんだ。」

『え……?』

「そもそも星空の娘はボンゴレのものじゃない。星空の娘は本来1つのマフィアに留まるものじゃなかったんだ。だけど初代ボンゴレが星空の娘を手に入れるために自らの守護者と婚姻を結ばせ、無理矢理ボンゴレの手中にした。」

「「「!!?」」」

「その力に目が眩んで初代星空の娘の自由を奪ったんだ。君はボンゴレのそばにいる必要はない。君はボンゴレの所有物として扱われているだけだ。」

「違う!!!」

「本当に?君の仲間が重傷を負った時、君は花莉に助けを求めてたじゃないか。何度も何度も電話をしてね。」

『炎真…、なんでそのことを…っ?』

炎真がそのことを知るはずがない。だって、もし知ってたら教えてくれるはずだ。電源が切れてたのだって…、

「ごめん花莉。僕が携帯の電源を切ったんだよ。君に睡眠薬を飲ませてね。ツナ君が君を利用しようとするのはわかってた。だからこそ君を行かせるわけにはいかなかったんだ。」

「お前………!!」

『嘘…………っ、炎真がそんなことするはずがない!!炎真は優しくて、いつも私の味方でいてくれたのに…っ、どうして………!!』

「味方だよ。ずっと花莉の味方だ。だからこそ花莉をボンゴレに渡すわけにはいかない。一緒に行こう花莉。」

手を差し出され、炎真の目は真っ直ぐに私を捉えた。

「君は、僕を裏切らないよね?」

ああ、そうか。私が見たのは夢じゃない。あれは未来だったんだ。そう理解した瞬間涙が溢れた。もっと早くわかっていればこんなことにはならなかったのかもしれない。大好きだよ炎真。今もこれからも私の大切な幼馴染。だけど今貴方がしていることは許せない。だから私は貴方の前に立ちはだかる。

「仕方ないね。力ずくで理解してもらうよ。」

『っオーロラの結界バリオラ・ディ・アウローラ!!』

杖を床につき、広範囲でオーロラの結界を作る。本当は炎真にこんなもの向けたくない。戦いたくない。そんな想いが頭の中でぐるぐると渦巻いていて苦しくなった。その気持ちは力に反映され、炎真の力に徐々に押されてしまう。

「ダメだよ花莉。全然集中してない。こんなのじゃすぐ壊せるよ。」

『っく、』

結界は徐々にひび割れて、粉々に砕け散った。それはまるで星屑のように宙へ舞い、幻想的だった。

『はぁっ、はぁ…っ、』

「ごめんね花莉。」

『っ!!』

お腹に強い衝撃を受けて、意識が遠のいていった。気を失ってる場合じゃないのに、私の意思とは反して意識を手放した。

「花莉!!!」

綱吉が花莉の名を叫ぶが彼女に届くことはなかった。炎真は気を失った花莉の体を支える。

「帰ろうアーデルハイト。簡単に殺しちゃいそうだよ。一瞬で殺してしまったらシモンが背負わされたのと同じ苦しみを味わわせられない。」

「そうだな。息の根を止めることなどいつでもできる。奴らに味わわせるべきは生き地獄。」

「クロームちゃんも連れて行くよ。デートする約束してるからね〜ん♪」

クロームはジュリーに抱えられ、連れ去られようとしていた。クロームのリングは虚しく地面へと落ちてしまう。

「クローム!!」

「ツナ君は自分の心配をした方がいいよ。」

炎真は追い討ちと言わんばかりに綱吉に攻撃をし、ついに綱吉のボンゴレリングも壊れてしまう。炎真は花莉の体を抱き上げ、立ち去ろうとした。

「……待ち………なよ………、」

グッと起き上がろうとする雲雀に炎真はため息をつく。そして花莉を強く抱き寄せた。

「もういいって言ったのは貴方ですよね。」

「!」

「花莉を泣かせる貴方に、花莉は絶対に渡さない。」

そう吐き捨てた炎真は、仲間と共に立ち去った。ボンゴレに大きな傷と絶望を残して。