見届ける義務

あの時ああしていればよかったとか、あんなことを言わなければよかったとか後悔ばかりで、それでも立ち止まっていられない。進まなければならないんだ。

『う………っ、ん、』

お腹の痛みで目が覚めた。勢いよく起き上がればさらにお腹が痛み、思わずお腹を手で押さえる。

『い、痛い………。』

慣れない痛みに自らのお腹をさすると、服の触り心地に違和感を感じた。不思議に思い、お腹に視線を移すと黒い服を身につけていることに気づく。

『至門の制服……?』

「アーデルが着替えさせたんだ。」

『っ、炎真………っ、』

その声に体がびくりと震えた。ゆっくりと声のする方へ視線を向ければ、炎真がこちらへ近づいてきていた。先ほどの出来事が鮮明に思い出されて無意識に身を固くする。

「さっきはごめんね。お腹痛い?」

『だ、いじょうぶ…。』

言葉は優しいけれど、少しだけ怖い。微笑みながら近づいてくる炎真と目が合わせられない。

「ここはシモンの聖地なんだ。初代から使ってる島なんだよ。必要なものがあったら言ってね。」

『炎真…っ、私はここにいられないよ…っ、皆酷い怪我を…っ、』

「………。」

先ほどから笑っていた炎真から笑顔が消えた。そして彼は手を伸ばし私の顎を掬い上げた。

「君はもうボンゴレのことを考えなくていい。」

『炎真…!どうして…っ、』

「言ったでしょ。ボンゴレに利用されてる花莉を助けたいんだよ。花莉は僕の大切な人だから。」

炎真が大切にしてくれているのはわかる。私だって炎真やアーデル達が大切だよ。でも、綱吉君達も同じくらい大切なの。どうしたら伝わるの。今のままじゃ炎真に私の言葉は届かない。

「復讐に手を貸してなんて言わない。それでも僕のそばにいてほしいんだ。」

『…っ、』

「お願い花莉。」

『………………わかった。』

ダメだ、私は炎真を拒めない。だって私は何度も炎真に救われてきた。化け物だと言われて独りぼっちだったけど、炎真はそんな私のそばにいてくれた。拒めるわけがない。でも、皆が争うところなんて見たくないよ。

「!……来たみたいだ。ここで少し待ってて。すぐ帰ってくるから。」

炎真は私から離れ、この部屋を後にする。ドアに鍵をかけた様子もない。炎真は私が逃げられないことをわかっているからだ。

「星空の娘<フィリア・デッレ・シエロステッラート>。」

『!!復讐者<ヴィンディチェ>…?』

「お前にはシモンとボンゴレの戦いを見届ける義務がある。」

『なんのことを…、』

「これを見ていろ。」

復讐者が渡してきた鏡を受け取り、その鏡を見た。するとそこには炎真達と綱吉君達が対峙している姿が映されている。その様子を見ていればシモンとボンゴレは誇りをかけて戦うことやそして負けた者は永遠に牢獄へと繋がれることが話されている。T世と初代シモンは固い友情で結ばれていたんだ。T世が友人を裏切るような真似をするだろうか。それに…、

『ネブローサさんが無理矢理婚姻を結ばされた…って。』

私が見た記憶ではそうは思えなかった。私は試練で彼女を"経験"している。あの気持ちは嫌なものではなかった。むしろ幸せで愛おしくて…。

「その鏡には戦いの様子が映し出される。見届けるのだ、戦いの行方を。」

そして復讐者は消えていく。残された鏡には迷いが残る私の顔が映っていた。鏡を置き、ため息をつく。そういえば委員長はいなかったな。もしかしたら助けに来てくれるかもしれないって期待してた。でもあんなことがあったから来てくれるわけないよね。来たとしても私のためじゃない。敵を咬み殺しに来るだけだ。

「ただいま。」

炎真達が帰ってきた。後ろにはアーデルもいる。

「花莉、目が覚めてたのね。」

『うん、着替えさせてくれてありがとうアーデル。』

「とても良く似合うわ。」

優しく微笑むアーデル。その姿に胸が痛んだ。本当に優しい人達なんだ。綱吉君達に誤解して欲しくない。でも皆は綱吉君達を殺そうとしている。

『アーデル…、あの…、』

言葉が詰まって出てこなかった。なんて言えばいいんだろう。傷つけたくない、嫌われたくない。臆病な自分が嫌になる。言葉に詰まった私を、アーデルはそっと抱きしめてくれた。

「花莉、何も言わないで。貴女はここで私達の帰りを待っていてほしいの。」

『…………うん。』

優しい穏やかな声に、私は頷くことしか出来なかったんだ。