その拳をぶつけて

「花莉。」

『……紅葉…。』

綱吉君達が炎真達の言う聖地にたどり着いてから4時間ほどが経とうとしていた。私は鏡を裏向きにして置き、これから始まろうとする戦いのことで頭がいっぱいだった。ぎゅっと拳を握って、奥歯を噛み締めていると、部屋に紅葉が訪れる。

「何をそんなに不安そうな顔をしている。結局僕達が勝利をするのだからそんな顔をするな。」

『私は…皆に傷ついてほしくない…。』

「花莉、これはシモンの誇りを取り戻すための戦いだ。」

『わかってる。わかってるけど…、』

皆が酷い目に遭ってきたのは理解してる。だから戦わないでなんて言わないけど、やっぱり嫌だよ。戦ってほしくない。

「時々花莉と共に暮らした日々を思い出す。」

『…、』

「お前は僕達を本当の家族のように想ってくれていたな。共に笑い、泣いた。そして喧嘩もした。」

『うん…、』

「戦いが終われば、きっとまたそんな日々を送ることができる。お前の力をマフィアに利用させたりなどしない。必ず守ってやる。だからお前は僕達を待っていればいい。」

真っ直ぐな紅葉の言葉に偽りはない。紅葉はいつも私に本音で真っ直ぐぶつかってきてくれた。幼い頃は喧嘩も多かったけれど本音でぶつかっていたからこそ互いを信頼していたんだ。それは今も変わらない。

『紅葉…、』

「そろそろ準備をする。戦いが始まるからな。行ってくる。」

『行って……らっしゃい………、』

遠ざかるその背中を見届ける。手を伸ばしてももう届かない気がした。どちらかが敗北すればもう二度と会えない。悲しいに決まってるじゃないか。涙が止まらないよ、紅葉。

***

そしてついに戦いの幕が上がった。最初に戦うのは紅葉と笹川君。彼等の勝負の掟はボクシング。一度でも膝をつけば負けのワンダウン制。笹川君の晴れの属性に対して、紅葉は森の属性。2人は睨み合い、そして戦いが始まった。

やはり見ていられなかった。何故大切な人達が傷ついているのに私はただ見ているだけなのだろうか。それでも彼等は誇りをかけて戦っている。私にはそれを見届ける義務がある。

死闘が繰り広げられ、笹川君も紅葉もボロボロになっていく。どちらもその誇りを絶対に譲らない。

「紅葉…、お前達は星影をどうするつもりだ。」

「ふん、結局貴様らのように花莉の力を利用する輩から花莉を守るに決まっているだろうが。貴様達と一緒にするなよ。あいつは僕達が守ってやらなければならないんだ。ボンゴレを倒した暁にはあいつは二度と汚い世界には出さない。この聖地で一生僕達と過ごしていくんだ。」

まさか、シモンの皆がそんなことを考えているなんて知らなかった。私を守るために、私をずっとここへ閉じ込めておくつもりだったなんて。

「お前達がどう思おうが勝手だが、一つ勘違いをしている。」

「なんだと?」

「星影は囲って守ってやらなければならないほど、弱くはない!!」

『!』

「あいつは逆境を乗り越える力を持っている!!それは星空の力ではない、星影自身の力だ!!」

「貴様に何がわかる!!花莉はあの瞳に苦しめられ泣いていたのだ!!あの瞳がある限り花莉は傷つき、涙を流す!!ボンゴレに花莉は渡さん!!」

再び拳がぶつかり合う。この勝負もきっともうすぐ終わる。笹川君の全力の一撃であたりが爆風に飲み込まれた。煙からは倒れてもおかしくない2人がまだ膝をつこうしない。絶対に負けられないという意地が彼等を奮い立たせているのだとリボーン君は言った。

「紅葉ーーー!!」

「了平ーーー!!」

2人の最後の拳はぶつかり、そしてどちらも地へ倒れていった。

「勝負は決した。」

酷い怪我をしている2人は復讐者によって鎖に繋がれてしまう。そして暗闇へと引きずりこまれていった。最初の戦いが終わり、復讐者はT世と初代シモンが託した"鍵"と呼ぶものを差し出す。それは少し古い袋のようなものだった。その直後、頭にT世と初代シモンの記憶が流れ込んできた。初代シモンは炎真にそっくりな青年だった。彼等の始まり、出会いの記憶。

『ボンゴレT世…貴方は本当に初代シモンを裏切ってしまったんですか……?』

どうか嘘であってほしい。真相はきっとどちらかが勝ち、どちらかが負けた瞬間に知ることになる。大切な人を失って真相を知っていくんだ。なんて残酷なのだろうか。

『紅葉…っ、笹川君……っ!!』

永遠に会えなくなってしまった2人を思い、私は涙を流すことしかできないのだ。