誰かのために生きること

目が覚めたら炎真はすでにいなかった。少しだけ温かい隣に触れたらじんわりと涙が出そうになった。カーテンを開ければ、眩しい日差しが目を刺した。こんなにも澄み切った空の日は皆で出掛けたい。お弁当なんて作ったりして、シモンとボンゴレの皆で河川敷でレジャーシートを敷いて過ごすの。芝生では四肢を放り投げてゴロゴロして、お昼寝をするんだ。

今は叶いそうにないそんな願いが、私の頭の中をいっぱいにした。きっと、ボンゴレとシモンの間に何か誤解が生じてると信じているからだ。過去を知ることが出来るのは、勝敗が決まった後だけ。もどかしいこの状況をどうにか打開することは出来ないのだろうか。

私は至門の制服に着替え、部屋の外へ出た。もちろん逃げるつもりはない。ジッとしていても何も始まらないから。せめて炎真とゆっくり話す時間があったらいいのに。

「あり?花莉?」

『!』

「どうしたんだよこんなところで〜っ、もしかして寂しくなっちった?」

『えっと…、あ、貴方こそ何してるの?』

「俺〜?俺は花莉んとこに行こうとしてたんだよーん♪俺とお茶でもしよーぜ!」

ぐいぐいと私に近寄る彼に、私は一歩下がって彼を見据えた。

『あの…この戦いのことどう思ってる……?』

「そりゃあ早くボンゴレを全滅させてやりてーよ。裏切り者の血を引く最低最悪の]世を早く殺してな。」

『…!』

この違和感は何なのだろうか。他の皆と何かが違う。他の皆もボンゴレを殺したいと思っているだろうけど、それよりもシモンの誇りを取り戻すことを念頭に置いてあるはずなのに。

「何でそんなこと聞くんだよ花莉。」

『な、なんでもない!変なこと聞いてごめん。お茶はまた今度にしよう。』

私は残念そうな顔をする彼と別れて、城内を歩き回った。すると、しとぴっちゃんと鉢合わせる。彼女は少し気まずそうな顔をして私を見た。

『しとぴっちゃん…行くの…?』

「うん…、」

『そっか…。』

「花莉、私のコト嫌いになる?」

『どうして?』

「花莉の大事な人を倒しに行くから。」

俯くしとぴっちゃんの頬を両手で包み込んだ。すると彼女は目を見開き、驚いた表情を見せた。

『しとぴっちゃんはしとぴっちゃんの誇りの為に戦うのに、どうして私がしとぴっちゃんを嫌うの?そりゃあ結果的に私の仲間と戦うけど、しとぴっちゃんだって私の大事な幼馴染だよ。何があったって大好きだよ。だから…俯かないで。』

「!…ありがとう花莉。」

『行ってらっしゃい。』

きっと私はとても残酷なことをしているのだろう。もう二度と陽の光を見ることが出来なくなる可能性だってあるのに、それでも行ってらっしゃいと背中を押す。押したいわけじゃない。それでも引き止める権利だってないんだ。

その後城を歩き回っても何かが見つかることはなかった。広すぎて行けていない部屋もあったので、また戦いが終わった後に捜索することにした。自分の部屋に戻り鏡を見ると、すでにしとぴっちゃんと隼人君の戦いが始まろうとしていた。

2人の戦いは風船割り。2人には2個ずつの風船が与えられ、全てが割れたら負け。5分以内に勝敗が付かなければ引き分けだ。そして2人の戦いが始まった。隼人君の嵐の属性に対してしとぴっちゃんは沼の属性。どんな無機物でも発酵させてしまうと言う。

しとぴっちゃんは隼人君の10代目に使える守護者であることが誇りということを否定した。他人のために生きることは弱いことだとしとぴっちゃんは言う。綱吉君のダメダメなところが彼女の口から驚くほど出てくる。綱吉君は泣いていた。少し気の毒だった。

「しっかりとダメな10代目の現実を見て。貴方が崇める沢田綱吉はボンゴレ10代目じゃなかったらどう考えてもタダのダメ人間よ。」

「ハァ〜、そんだけか?」

「!!」

「え、」

突然しとぴっちゃんのそばで爆発が起き、彼女の風船が1つ割れた。隼人君は彼女に綱吉君のダメなところは全部知ってると伝える。

「俺が思う10代目がボンゴレの10代目たるすげー所と何らカンケーねーし。」

『隼人君…、』

今の隼人君は指輪争奪戦の時の影すらない。未来での戦いの時もそうだったけど、彼はずっと大人になっていた。常に高みを目指し、努力を惜しまない。そんな彼だから綱吉君の隣にいて、綱吉君を支えることができるんだ。

隼人君のVGによって、しとぴっちゃんは戦いに敗れた。彼女は鎖に繋がれてしまい、第3の"鍵"である手紙が私達を真実へと導いていく。その記憶は初代シモンがボンゴレT世からの手紙を読んでいる場面だった。その手紙の最後にはボンゴレT世が初代シモンに大きな戦があるため、力を貸して欲しいと綴ってあった。

大きな戦とは、きっとシモンが壊滅する戦いのことなのだろう。もうすぐT世が初代シモンを本当に裏切ったのかわかる。

「初代シモンはボンゴレT世のために戦って裏切られて殺されたでしょ?だから私は自分のために生きるって決めたんだよ。人と違うことをするといっぱいイジメられて最初は辛かったけどしばらくするとまわりは気にならなくなって自分は正しいって確信したの。それにね、花莉が、私は私でいいって言ってくれたんだ。シモンの仲間以外で私を受け入れてくれたのは花莉だけだった。だから私は花莉が大好きなんだ。」

『しとぴっちゃん…っ、』

私だってそうだよ。この瞳を受け入れてくれたのはシモンの皆だけだった。救われたのは私なのに。しとぴっちゃんは隼人君をUMAだと言い、もっと早く発見すればよかったと涙を流していた。そんな様子を見て、隼人君もやりきれない表情をする。そして、綱吉君はそんなしとぴっちゃんを見て、戦いが終わったら助けに行くと言った。綱吉君もこの戦いに疑問を持っているのだ。

「余計なお世話だ!!つかまれしとぴっちゃん!!」

連れて行かれようとするしとぴっちゃんを助けようとする者がいた。しかしそれは復讐者に阻まれ、しとぴっちゃんは連れて行かれてしまう。しとぴっちゃんを助けようとしたのは、涙を流す炎真だった。

「沢田綱吉!!今ここでお前を倒す!」