その苦しみを
炎真は冷静ではなかった。我を忘れ、今にも綱吉君を殺そうとしている。仲間を傷つけられたことを許せないと叫ぶ彼だったが、綱吉君も同じだった。死ぬ気になった綱吉君と我を忘れた炎真がぶつかり合う。それは凄まじい戦いだった。
「待ちなさい炎真!まだ戦いのルールも決めていない!」
「いちいち指図しないでくれ!もう子供じゃないんだアーデル!!」
「!!」
「ボンゴレは僕が全滅させる!」
炎真がアーデルに対してあんな事を言うなんて思わなかった。それほど怒りを抑えられることができていないのだろう。炎真は綱吉君に攻撃するが、綱吉君は引けを取らないほど強くなっていた。
「この強さ…、血も涙もない残虐なボンゴレT世の正当後継者だけのことはある。」
「T世はお前の思っているような男じゃない。過去の記憶を見ているはずだ。それに俺は今のボンゴレを継ぐつもりはない。」
そう言った綱吉君に炎真はずるい男だと言い切る。ボンゴレの力にあやかりながらも責任逃れをし、他人を傷つけてボスを継がないなんて虫がよすぎると炎真は綱吉君を睨んでいる。そして炎真の口からは衝撃の話が出た。
「教えてやるよ沢田綱吉。君という人間は初代シモンを裏切ったボンゴレT世の子孫というだけじゃない…。僕の両親と妹を殺した沢田家光の息子なんだ!!」
『!?』
炎真の瞳から涙が流れる。嘘を言っているようには思えない。でも家光さんが炎真の家族を殺すとも思えない。わけがわからなくて私自身も混乱していた。そして綱吉君は突きつけられた残酷な話に死ぬ気モードが解け、炎真に殺されそうになってしまう。しかし炎真は突然苦しみ始め、綱吉君は殺されはしなかった。妹を返せと訴える炎真に、綱吉君は言葉が出てこない。アーデルは炎真を連れてその場を後にした。
『もう何もわからないよ…。』
私は鏡をベッドに放り投げて、頭を抱えた。しとぴっちゃんは連れて行かれて、炎真は暴走して、家光さんが炎真の家族を殺してて。頭がいっぱいいっぱいだ。
『委員長…、!!』
無意識に委員長と呟いてしまい、ハッと口を押さえた。ダメだ、あの人にばかり頼ってはダメ。私が自分で考えて動かなきゃ。私は鏡を持ち部屋を出て、すでに帰ってきていると思われる炎真の部屋に向かう。彼の部屋のドアをノックすると、アーデルがどうぞ、と言った。部屋へと入れば、ベッドの傍らで炎真の手を握るアーデルの姿があった。
「花莉、」
『アーデル、炎真はどう…?』
「シモンリングの覚醒が進んでるわ。でも…、」
『すごく…苦しそう…。』
「…ええ。」
アーデルは心配そうに炎真を見つめる。炎真はアーデルにとって弟のような存在なのだろう。そんな彼が今まさに苦しんでいるのだ。きっと気が気ではないだろう。
『アーデルは、炎真の家族が綱吉君のお父さんに殺されたって知ってた…?』
「いいえ…知らなかったわ。」
『じゃあ…、』
「……おそらく…ジュリー…。」
やはり彼には何かある。でもまだわからないのだ。確信できるような証拠を掴まなくてはいけない。アーデルがジュリーをどう思ってるかは知っている。だからこそ曖昧なことを言うわけにはいかない。
「花莉、私はシモンの為に、炎真の為に戦うわ。例え貴女の友人でも、私は粛清する。」
『うん…。アーデルのそういう所好きだよ。曖昧にしないで、はっきり言ってくれる所。』
「貴女は変わってるわ。時に誰かを傷つけてしまうこともあるのに。」
『でも、アーデルは故意に誰かを傷つけようとしないから。アーデルの言葉は私の背中をいつも押してくれたよ。』
私にとっても姉のような存在だ。そして姉でありながら、親友でもある彼女はいつも私を叱咤し、背中を押してくれた。俯いてばかりだった私の顔を上に上げてくれたのは彼女だ。
「花莉、炎真を頼んだわ。」
『うん、行ってらっしゃい。』
彼女は立ち上がり、部屋を後にする。私はベッドの傍らに膝立ちになり、炎真の手を握って力を込めた。この苦しみが少しでも和らいでくれればいい。もう炎真に苦しんで欲しくないのに。
少しすると、廊下で話し声が聞こえてきた。これは彼の声と、もう1人。少女の声だ。この声を私は知っている。私はすぐに部屋を出て、廊下を見た。すると少し離れたところに2人の姿がある。
『クロームちゃん!!』
「!!どうした花莉。そんな大きな声出して〜。」
振り向いたクロームちゃんの瞳には光がなかった。彼女は私と同様至門の制服を身につけている。
『クロームちゃんに何をしたの…?』
「…、クロームちゃんもシモンに入るからな〜〜〜♪これで花莉も寂しくないだろ?」
『ふざけないで…っ、クロームちゃんはボンゴレファミリーでしょう…!』
「じゃあクロームちゃん殺しちゃってもいいの?」
『っ、』
まるで黙れというように圧をかけてくる彼に、私はそれ以上何も言えなかった。何故クロームちゃんなんだ。クロームちゃんは確実に何かをされている。
「じゃっ、俺ちんこれからクロームちゃんとデートだから!まったね〜〜〜!」
『待っ…、クロームちゃん!!』
2人はそのまま行ってしまった。クロームちゃんは私と目を合わせることはなかった。クロームちゃんを人質に取られてしまっては下手なことはできない。
『ああああ…、』
ぐしゃぐしゃと頭をかき、しゃがみこんだ。自分にできることが少な過ぎて腹立たしい。悔しいんだよ。それこそ委員長みたいに本能のまま動けたらいいのにと思う。
『って…、また委員長のこと!』
私は自分の頬をぱしんと叩き、炎真が眠る部屋へと戻った。とにかく今は炎真の苦しみを和らげてあげたい。もう彼の心は限界だろうから。
私は炎真の手を握りしめ、再び力を込めたのだった。