蝕まれた心
『うあっ…!!』
ベッドに強く押し倒された花莉は、怯えた表情で炎真を見た。炎真はシモンリングによる覚醒によって心を蝕まれている。
『炎真やめて…!!』
炎真は花莉の両手を押さえつけ、彼女を見下ろしている。花莉の制止の声は届かなかった。
「花莉は…、僕を弟みたいに思ってるみたいだけど、僕は君を姉だと思ったことなんてない。」
『!?』
「渡さない、ボンゴレなんかに渡さない。君を僕のものにしたい。欲しい、花莉が、欲しい。」
欲望を孕んだその瞳にゾッとした。何を言っても炎真に届かない。押さえつけられた手をどうにか解こうとしたがビクともしなかった。私と背丈も変わらないのにどうして。
「なんで振り解けないんだって思った?」
『!!』
「花莉、僕も男なんだよ。」
そう耳元で囁かれ、恐怖で心が満ちてしまった。自分の体が小さく震え始めるのがわかる。
『んん…ッ、』
彼の唇が重ねられた。押さえつけられた手が痛い。頭の中がぐちゃぐちゃになってどうしたらいいのかわからないんだ。炎真とこんなことしたくないのに。
『んっ、…ッ、やめっ、』
そのうち浅い口付けは深いものとなっていった。彼の舌が口内を弄り、溢れた唾液が口からこぼれて伝っていく。これが全然知らない人であれば舌を噛むのに、大切な幼馴染である炎真のためそれができない。私に出来ることは何もない。
「はっ……、花莉…、花莉…、」
『っ!?やっ、』
炎真は花莉の至門の制服のチャックを下に下げた。花莉は空いた片手で制止するが、彼は片手だけで花莉の両手を頭の上で押さえつけた。器用にワイシャツのボタンを外し、露わになった首筋に唇を落とす。
『やめて炎真…!!お願いだからっ、』
「どうして、拒むの?君も、僕を、裏切るの?」
『っ違う…!!』
「じゃあお願い。拒まないで、僕を、受け入れて。」
『〜〜〜っ、』
炎真を裏切るつもりはない。今拒めば、炎真は本当に手が届かない人になってしまう。そんなの嫌だ。でもだからってこんなこと…っ、
「いい子だね、花莉。」
お願い炎真、どうか元に戻って。気が弱くて、少し不器用で、猫が好きで、優しくて、仲間思いの私の大好きな幼馴染。
「こらこら炎真〜!」
「『!?』」
この空気にそぐわない明るい声に、私も炎真もハッとした。炎真の肩を掴むのはジュリーの姿をしたDだった。
「邪魔しないでジュリー。」
「よく見ろよ炎真。花莉泣いてるぜ?」
「!!」
炎真は驚いた表情をした後、顔を青くした。そしてゆっくりと私から離れていく。
「花莉…っ、僕…っ、」
『!!』
ふらふらとしながら炎真は部屋を出て行こうとする。今ほんの一瞬、本来の炎真が戻ってきた気がした。今ならもしかしたら間に合うかもしれない。
『えん…むぐっ!!』
「花莉、しー。」
『!!?』
起き上がろうとしたところを、Dに口ごと押さえつけられ、炎真を追いかけることは出来なかった。遠くなる炎真に手を伸ばすがその手が炎真に届くことはなかった。
「もうすぐだな〜〜♪あと少しで完全に壊れる。」
『んんっ、』
「おおーっと、ごめんごめん花莉!危なかったな〜〜〜!俺ちんナイスタイミングだったっしょ?」
口から手を離され、勢いよく起き上がる。全ての元凶である目の前の男に憤りしか感じない。
『ジュリーの姿で花莉って呼ばないでください、D・スペード。』
「!!おやおや、貴女も盗み見ですか?まぁ、貴女は最初からわかっていたんでしょうけどね。一度も私をジュリーと呼ばなかったでしょう。」
『ジュリーじゃない人をジュリーって呼べません。』
「そうですか、では改めてはじめまして今代の星空の娘<フィリア・デッレ・シエロステッラート>。」
ジュリーの姿から本来の姿へと戻るDは妖しげに笑っていた。