Una vita un amore
目を覚ますと、見慣れない天井が視界に入った。どうなったか何も覚えてない。Dが眠るのを見届けて、それから…、なんてことを考えていると手に温もりを感じていることに気づいた。誰かに握られてる。ゆっくりと顔だけ横に向けると炎真がベッドに突っ伏している姿が見えた。炎真が私の手を握っていてくれていたようだ。そしてその奥に壁に寄りかかり立ったまま目を瞑るアーデル、床に寝ている薫と紅葉、ジュリーにしとぴっちゃん。なんだかすごい光景だ。どうやらここは病院みたいだ。あの後すぐに気を失ってしまったのか、それとも寝てしまったのかどちらかわからないが、ここに運ばれたようだった。私はグッと力を入れ起き上がる。思った以上に体が重くて驚いた。
「ん…、花莉………?花莉!!目が覚めたの!?」
『うん………。』
「「「花莉!!」」」
『皆、おはよ…………。』
「おはよ、ではないこの馬鹿チンが!!」
『こ、紅葉うるさい…、体に響く…。』
これは小言を言われるかな、と思って覚悟したがいくら待っても小言は聞こえてこなかった。紅葉の顔を見ると何かに耐えるような、そんな表情をしていた。紅葉だけじゃない、他の皆も同じ表情だった。
『どうして、そんな顔するの…?』
「お前を…っ、悲しませたからだ…っ、」
『なんで……皆の方がいっぱい悲しくて…いっぱい痛かったよ…。』
「花莉、」
炎真に先ほどよりも力強く手を握られる。炎真を見ると優しい表情をしていた。
「花莉の本当の気持ちを教えて。もう我慢しなくていいよ。ちゃんと聞くから。」
『………、』
そんな優しい炎真の言葉に自然と俯いてしまう。目を合わせられない。それでもきっと彼等は優しく聞いてくれるのだろう。
『もう……二度と会えないかと思った……。』
「うん。」
『本当は誰にも傷ついてほしくなかった…。いってらっしゃいなんて言いたくなかった…。』
「うん。」
『悲しいよ…っ、大好きな皆が傷ついたら悲しいに決まってる…っ!!』
「うん。」
これは私の自分勝手な気持ちに過ぎない。炎真達は自分の誇りをかけて戦った。それを責める権利もなければ、止める権利もない。悲しかった、辛かった。でもそれ以上に感じたのは何もできない自分への憤り。
『気付けなくてごめんね…っ、炎真達の悲しみも辛さも…っ、私は何一つ気付けなかった…っ、』
じわりじわりとシーツに染みを作っていく。顔を上げることなんて出来ない。皆の辛さを知らずにただのうのうと笑っていた自分が恥ずかしい。
「それは違うわ花莉。貴女と過ごした日々は穏やかで、幸せだった。貴女といる時間だけはなににも縛られず、素でいられた。私達にとってその時間がどれだけ大切だったか。…私達を大事にしてくれてありがとう花莉。」
『アーデル…っ、ふ、うぅ…っ、』
アーデルは炎真ごと私を抱きしめてくれた。炎真は恥ずかしそうにしていて、それを見たジュリーが抱きついてきて、さらにしとぴっちゃんとらうじと薫が抱きついてきて、最後に紅葉が呆れたようにぎゅうぎゅうになって団子と化した私達にそっと手を添えた。ギャーギャーと騒いでいたら看護師に怒られて、絶対安静の薫と紅葉が病室に連れ戻された。炎真達も肩を竦めながら、また来るねといって病室を後にする。急に静かになった病室に少し寂しさを感じたけれど、私は安心してもう一度眠りについた。
***
「花莉。」
彼が私を呼んだ気がした。あまりにも優しい声で呼ぶものだから、彼がどんな顔をして名を呼んでくれたのか気になってしまった。
何かの眩しさに沈んでいた意識が覚醒し、そっと目を開ける。すると月明かりがちょうど私の所へ差し込んでいるのがわかった。気怠い体を起こし、視線をそっと横へと移すと、彼が椅子に座って目を閉じていた。葉っぱの落ちる音で起きるような彼だから、私がベッドでゴソゴソとする音に気付かないわけがなかった。そっと開いた瞳はすぐに私を映す。
「起きたんだね。体は大丈夫なの。」
声を聞いた瞬間、何かが弾けたように涙が零れ落ちた。胸の奥が熱くなって、じりじりと焦げついていく。
「泣くほど何処かが……、」
『好き………………っ、』
「…!」
一度言葉にしたらもう止まらなかった。今すぐに伝えないといけない。今度じゃダメなの。今じゃなきゃきっと後悔する。
『好きです…っ、委員長がっ、好きっ、』
もっと早く伝えれば良かった。委員長に出会って色んな感情を知った。全部諦めて悲観していた私の背中を押してくれた。弱くてもいいと受け入れてくれた。信念を曲げない、真っ直ぐな彼のようになりたいと思った。彼の隣に立っていたいと何度も願った。
『この先も…っ、ずっと委員長の隣にいたいです…っ、』
「……君は馬鹿だね。」
雲雀はそっと花莉の涙を指で拭う。それでも止めどなく溢れてくる涙に僅かに笑った。
「君が隣にいなくても委員の仕事は終わるし、何も変わらないよ。…ただ、だらしなく笑ってる顔が偶に見たくなった。僕を呼ぶ声が聞こえないのは物足りない。」
『っ、』
「君が隣にいないと退屈で仕方ないよ。」
『い、いんちょっ……っ、』
「僕の隣で笑ってるのも、僕を呼ぶのも、全部君がいい。」
私の頬を撫でる指先があまりにも優しくて、涙が止まるはずがなかった。彼は先ほどよりも笑みを深くして、優しく笑った。
「好きだよ、花莉。」
ずっと聞きたかった言葉だった。貴方に恋をして切なくて苦しくてどうしようもなかった。この想いが彼に届かなくても、離れる時が来るまで隣にいたかった。傍にいるだけで幸せだったから。でも、貴方とこの恋を共に出来るのなら、私は―――、
「泣きすぎだよ。」
『だ、だって…っ、』
「まぁ、君の泣き顔は嫌いじゃないけどね。」
雲雀は花莉の髪をそっと耳にかけ、涙を流す彼女にそっとキスをした。触れるだけの優しいキスだった。そんな優しいキスに花莉の涙は更に溢れていく。
『…っ、』
「いつになったら泣き止むの?泣き過ぎて頬が溶けそうだよ。」
『誰のせいだとっ、思ってるんですか…っ!』
こんなに優しいキス知らない。こんなに幸せな気持ちになれるなんて聞いてない。心が愛おしさで満ちていくのがわかる。想いを伝えずにはいられない。
『委員長、大好きです。』
「知ってるよ。」
そう言って私達はもう一度、触れるだけの優しいキスをした。
-継承式編 END-