それは唐突に

『はああああ…。』

どうしようどうしよう。本当に学校に行きたくない。何故学校に行きたくないかと言うととんでもない醜態を晒したからだ。昨日は熱で寝込み、夢に委員長が出てきたと思っていた。否、思い込んでいた。昨晩おばさんに委員長が家を訪ねてきたと聞き、あれは夢ではなく現実なのだと理解した。恥ずかしさでのたうち回り、何度も壁に頭をぶつけた。しかしどれだけ後悔しても時は進む。

今日の朝は病み上がりだから他の生徒と同じ時間帯でいいと草壁君からメールが入っていた。有り難い、非常に有り難い。重たい足取りで学校にたどり着く時間はすでに遅刻ギリギリの時間だった。正門に立っていた草壁君に謝ると、体調を気遣われた。

「すまないが委員長の様子を見てきてくれないか。」

『な、何かあったの?』

「少し厄介なことになっていてな。見たらわかる。」

私は嫌な予感がし、急いで校舎に向かうと校舎には風紀の段幕と粛清の段幕が掲げてある。そして屋上では委員長が女生徒と戦う姿が窺える。遠くてよく見えないがたぶんスカートを履いているから女の子だろう。

『女の子相手に何やってんのあの人!!』

私は急いで校舎を駆け上がり、屋上の扉を勢いよく開けた。

『委員長!!何やって…るん、です…か………?』

屋上に足を踏み入れた瞬間、多くの視線がこちらを向き、流石に声を段々と小さくなっていった。

「花莉先輩!」

『綱吉君…これは…?』

「えっ、えーっと!俺も今混乱してるところで!!」

「花莉?」

『!』

聞き覚えのある声に心臓がどきりと跳ねる。そっと視線をズラすと、懐かしい面々が揃っている。

『えっ、えええ炎真!?』

「そうだよ、久しぶりだね。花莉。」

『ななななななんで、』

予想もしなかった再会にうまく言葉が出てこない。私は大切な幼馴染である炎真の傍に駆け寄り、ぎゅっと手を握った。少し背が伸びただろうか。でも傷だらけだ。

『な、なんでこんなに傷だらけなの?』

「ちょっとね。いつものことだから大丈夫だよ。」

『全然大丈夫じゃない。傷つくことに慣れちゃダメだよ。』

「!…ごめん。花莉は変わらないね。」

「結局炎真だけか貴様!!」

『そんなことないよ。紅葉、アーデル、らうじ、薫、しとぴっちゃん。久しぶり。ジュリーはいない…みたいだね。』

久しぶりに会った幼馴染達は皆成長し、大人びた表情をしていた。炎真達は幼い頃から私を理解してくれていた幼馴染達。まさかこんなところで会えるなんて思いもしなかった。

「えーーーーー!?花莉先輩エンマ君達と知り合いーー!?」

『えへん、幼馴染なの。…ね?』

「うん。」

『皆はもう仲良しになったんだね?』

「誰が仲良しだ!!こいつらはシモンファミリーっつーマフィアだっつの!」

『え……………?』

「花莉、お前の瞳のこと、こいつらは知ってんのか?」

『知ってるよ…中学入る前はコンタクト付けてなかったから…。』

「ならお前が星空の娘ってことをこいつらは知ってたんだな。マフィアで星空の瞳を持つ意味を知らない奴はいねーからな。」

話についていけていない。炎真達がマフィア?そんなこと一度も聞いたことがない。そもそもこんなに優しい子達がマフィアなんて、そんな。炎真の手を握っていた手が震え始めてしまいその手を離してしまった。炎真を見ると、少しだけ傷ついた表情をしている。

リボーン君から話を聞くと、どうやら綱吉君がボンゴレボスの座を継承する式典が開かれ、それにシモンファミリーである炎真達が招待されたらしい。しかし、このタイミングでここに転入してきたのは、地震の危険を回避するためで継承式とは関係がないようだ。

『そ、そっか…。綱吉君おめでとう。わ、私教室に戻るね。』

「花莉先輩!!」

自分達がマフィアだなんて明かせないというのはわかってる。それでも心の何処かでどうして教えてくれなかったのかと思う自分がいる。こんなこと思いたくないのに。頭がぐるぐるして、混乱していた。とてもじゃないが炎真達と話せる状態じゃなくて逃げるように屋上から出た。

「お前達が花莉の幼馴染とはな。あいつが星空の娘ってわかってて近づいたのか?」

「勘違いしないで。花莉が星空の娘だろうが、普通の女の子だろうが変わらない。僕達の大切な幼馴染だよ。」

「炎真、落ち着きなさい。花莉は幼い頃からの友人だ。我々を助けてくれたのがきっかけだった。憶測で物事をいうのはやめていただきたい。」

「そうだな、悪かった。」

「…。」

気の弱い炎真が初めて鋭い視線を向けたその瞬間を、綱吉は見逃さなかった。