大切な幼馴染

「花莉。ちょっといいかしら。」

『アーデル…、』

昼休みになるとアーデルが私の元を訪ねてきた。私は彼女に連れられ、再び屋上へと足を運ぶ。屋上には至門の皆が揃っていた。

『皆…、』

「花莉、座って。」

『うん…、』

私は炎真の隣に座ったが、少しだけ気まずかった。さっきは混乱して逃げるように屋上を出て行ってしまったし、幻滅されただろうか。

「……マフィアってこと黙っててごめん。君を怖がらせたくなかったし、巻き込みたくなかったんだ。」

『…、』

「彼の言う通り、僕達は花莉が星空の娘であることを知っていたよ。だけど、それが理由で花莉に近づいたわけじゃないんだ。花莉は僕達を助けてくれたし、優しくしてくれた。そんな花莉だから幼馴染として君を守りたかった。…って、今更何を言っても言い訳になるけど…。」

炎真の言葉に泣きそうになってしまった。きっと彼等も悩んでいたのだろう。私を大切に想ってくれていたから黙っていたんだ。

『あの、話してくれてありがとう…。皆も…ありがとう。私を守ろうとしてくれてたんだよね…?それなのに…混乱して逃げちゃって……。』

「花莉…、」

『皆がマフィアでもマフィアじゃなくても私は皆が大好きだよ。それに私も自分のことがわかった時、皆に言えなかった…。この関係が変わっちゃうことが怖くなった…。ごめんね…。』

何かが変わってしまうことが怖かった。大切だから怖かったんだ。失いたくなかった。きっとお互いそうだったんだね。

私は炎真の顔についている絆創膏をゆっくりと取った。そしてそっと触れて傷を治していく。

「傷が…、花莉…貴女…。」

『最初は戸惑ったけど、皆のために使えるならこの力も悪くないって思えるようになったよ。これで炎真の怪我も治せるからね。』

「結局炎真が一番怪我をするからな!」

「ごめん。」

『今度からは私がすぐ治すから。あ、でも怪我しないのが一番いいんだよ。』

「花莉は炎真の姉貴だな。」

『らうじだってお兄ちゃんみたいなものでしょ。』

変わらないこの雰囲気に安心している。幼い頃から私をこうやって受け入れてくれていた。この瞳を持った私と友達でいてくれた。

「花莉、貴女、風紀委員なの?花莉が風紀委員に入ってるなんて思わなかったわ。雲雀恭弥に脅されているの?」

『脅されてはない!たぶん!』

「じゃあどうして、」

『な、成り行きで…。今ではわりと楽しくやってるよ。』

「風紀委員会なんて辞めて今からでも粛清委員会に来なさい。私が貴女を守るから。」

アーデルにぎゅっと抱き寄せられて、膨よかな胸に顔がぽふんと埋まる。アーデルは厳しそうに見えるが、誰よりも仲間思いで優しい。

『アーデル、ありがとう。でも私は大丈夫だよ。あんな強面な人達ばっかりだけど皆優しいの。』

「花莉…。」

「ボンゴレ…花莉はボンゴレのことどう思ってるの?」

『え…うーん、マフィアは怖いけど、綱吉君達は優しいよ。皆みたいに私を私として見てくれるし、きっと皆も仲良くなれると思う。』

「そう…、」

炎真の表情が少し曇った。いや、炎真だけじゃない。皆は何か神妙な面持ちで、下を向いている。何かまずいことを言ってしまっただろうか。

『あの…、』

「花莉は、僕を…僕達を裏切らないよね?」

『!!』

「君は、僕を裏切らないよね。」

「花莉?」

『っ、う、うん…。裏切ったりしないよ。皆は大切な幼馴染なんだから。』

「ありがとう、花莉。」

この嫌な感じは何なのだろうか。胸が騒ついて、不安になる。私はこの不安に知らないフリして、彼等とのこの時間を楽しんだ。