涙のワケは星が知る

『え、綱吉君が襲われた!?』

「そうだぞ。今日放課後にボンゴレとシモンが集まるみてーだ。」

『つ、綱吉君は大丈夫だった…?』

「ああ、あいつも未来で鍛えられたからな。」

昨日の放課後、綱吉君が他のマフィアに襲われたらしい。なんでもボンゴレの反対勢力だとか。恐ろしいなぁ。

「花莉、お前はどうするんだ?」

『どうするって…?』

「星空の娘<フィリア・デッレ・シエロステッラート>を受け継ぐのか?」

『え!?私まだ受け継いだことになってないんだ。強制かと思ってた…。』

「まぁほとんど強制だが9代目はお前の意思を尊重している。受け継ぐかどうかはお前の意思次第だ。」

『そっか、』

私の意思、か。でも、もう答えは自分の中で出ている。私は…、

「もう決まってるみてーだな。」

『うん。』

「ならいい。近々9代目が日本に来るからそん時に伝えてくれ。」

『わかった。』

「あとお前も気をつけろよ。まだお前の存在は漏れてねーが、星空の娘が存在していることは全世界に広まってる。並盛町にいることも恐らくバレてる。その瞳は必ず隠しておけ。」

『うん、気をつけるね。ありがとうリボーン君。』

リボーン君は窓から立ち去り、私はその小さな背中を見送った。しかし綱吉君も大変だな。うかうか寝てもいられないだろうに。

『町内の見回りに行かなきゃ。』

***

町内を見回りしていると、クロームちゃんの姿を見かけた。その腕には大量の麦チョコが見える。並盛にいるなんて珍しいな。

『クロームちゃん!』

「!花莉様…。」

『こんにちは。お買い物?』

「はい。花莉様は…?」

『町内の見回りだよ。最近物騒みたいだから気をつけてね。』

「はい…っ!」

少し照れながら笑うとクロームちゃん。私は彼女の頭を撫でて、別れた。クロームちゃんのそばには犬君と柿本君がいるから大丈夫かな。

「花莉♪」

『うわっ!?』

何者かに急に後ろから抱きつかれ、前に転びそうになった。どうにか踏ん張って転倒を避ける。一体誰だ、と後ろを振り向けば見知った顔が見えた。

『!!……じゅ、りー?』

「久しぶりだな〜〜〜!ちょ〜〜可愛くなったじゃん!!昔から可愛かったけど!」

『あ、あの…、』

「なんだよ久しぶりにあったから緊張してんの?ここで会ったのも運命っしょ!!オレとデートしようぜ♪」

『ち、近い!私見回り中だから!』

「冷て〜〜〜!!でもそういうところもちょ〜好き!またね〜〜〜!!」

彼に手を振り、私は町内の見回りを続けた。ジュリーはどうしたのだろうか。どうしてあんな…、いや、今はまだわからない。きっとすぐに昔のように戻ってくれるはずだ。

『ちょっと長く見回りし過ぎちゃったかな。』

すでに橙の空は夜の色へと変わっていきつつあった。少し小走りで学校へ戻る途中、強面のスーツの人達が私の前に立ち塞がった。

「並盛中の女生徒だな。」

「だがこいつは瞳が黒い。目的は星空の瞳だ。」

『!!』

どくりと心臓がはねた。この2人は今なんと言ったんだ。リボーン君の言う通りだった。すでにこの場所がバレている。だがまだ顔は割れていないようだ。今はコンタクトもしているし、きっと大丈夫のはずだ。

『なんですか…?』

「お前、ここらで青い瞳を持つ女を知っているか。」

『知らないです、すみません。』

「ちっ、見当違いか。」

「もういい、行け。」

『は、はい…。』

私は彼等の横を通り過ぎようとした。しかしそれは阻まれた。通りざまに1人の男に腕を掴まれたからだ。その瞬間ドッと汗が全身から出る。

「お前コンタクトをつけてるな?」

『目が…悪いので…。』

「外してみろ。」

『っ、』

掴まれた腕から血の気が引いていくのを感じた。このコンタクトを外せば確実にバレてしまう。でも誤魔化すこともできない。私の腕を掴む力がどんどん強くなり、恐ろしさで体が震えた。

「早くしろ!!」

『っ、い、や…っ、』

「何してるの。それに触らないでくれる。」

「なんだてめぇ。餓鬼はすっこんでろ。」

「それは僕のものだ。勝手に触れるのは許さない。君達はここで…咬み殺す。」

『委員長…っ、』

そこからはあっという間だった。委員長は簡単に男達を倒し、気絶させた。私は安心感からへなへなと膝の力が抜けてその場に座り込んでしまう。

「戻るのが遅いと思ったら…。何絡まれてるの。」

『っ私にも何がなんだか…、』

「ほら、行くよ。」

『腰…抜けちゃいました…っ、』

「はぁ、ほんと世話が焼ける。」

あまりの恐怖に腰が抜けてしまって立てない。情けないとわかっていてもあんな強面の人に腕を掴まれたら恐ろしくて動けなくもなるだろう。委員長は半泣きの私を横抱きにして歩き始めた。いやちょっと横抱きは恥ずかしすぎる。

『おんぶとかになりませんかね…?』

「運んでもらっといてなに文句言ってるの。捨てて帰るよ。」

『うっ、すみません。』

恥ずかしいけど、安心している自分がいる。先程のような危険が日常茶飯事になるのだろうか。綱吉君のことをわりと他人事のように考えていたからバチが当たったのかも。

「これからは町内の見回りはしなくていい。学校で仕事をしてて。」

『え…でも、』

「見回りのたび絡まれてても困る。」

『そう…ですよね…。迷惑かけてすみません…。』

「勘違いしないでくれる。さっきみたいに勝手に君に触れようとする奴がいるのが気に食わないんだよ。」

私の肩を持つ手の力が強くなるのを感じた。迷惑かけたくないのに。本当はそばにいない方がいいのに。そうわかっているのに、この人のそばにいたい。委員長の隣にいたいんだ。

「君は余計なことを考えなくていい。」

『はい…っ、』

涙が出るのは、きっと貴方が好きだから。