君を感じる温度
『重…。』
朝からショッピングモールで買い物をしていたら、どうやらくじ引きをやっていたようで無理矢理そのくじを店員さんに引かされてしまった。運が良い私はもちろん一等を当ててしまったわけで、5kgのお米をもらってしまった。家にはまだお米は沢山あるため居候が多い沢田家にお譲りしようと向かっているのだが重過ぎて挫けそうだ。
「花莉。」
『あっ、薫!!』
後ろから名前を呼んだのは薫だった。休日にもかかわらず彼は制服を着ている。
「…何してんだ?」
『実はくじでお米が当たっちゃって、うちじゃ多いから綱吉君達の家にお譲りしようと思ったんだけど…、重くて挫けそうだったところ…。』
がっくりと肩を落とすと、彼は無言でお米を持ち、歩いていく。
『薫!?』
「持っていく。」
『!!…ありがとう!』
言葉足らずで強面な顔をしているけど、とても優しい薫。前会った時よりもうんと大きくなっていてさらに頼りになる。
『薫は大きくなったね。』
「花莉は昔と変わらねえ。」
『身長は伸びたよ…?』
「フッ、そういう意味じゃねぇよ。」
『?』
身長じゃなければ性格…?まさか子どもっぽいということだろうか。もう高校生になるのだからちゃんとしなきゃな。
結局薫には綱吉君の家の前までお米を運んでもらった。薫にお礼を言うと彼は私の頭を撫でて去っていく。私はインターホンを押し、応答を待った。
「あらぁ!花莉ちゃんじゃない!こんにちは!」
『こんにちは。すみません突然押しかけてしまって。実は…、』
綱吉君のお母さんに事情を話すと、彼女はぱぁっと顔を明るくして笑った。
「ええ!本当に!ちょうどお米を切らしちゃったところだったの〜!本当にもらっていいのかしら?」
『是非お願いします。』
私はお米を家の中まで運び込む。するとリビングには何故か炎真とらうじの姿があった。
『炎真、らうじ。』
「花莉、なんでここに…。」
「花莉ちゃんがお米をくれたのよ!炎真君達もたくさんおかわりできるからね〜!」
「あ、ありがとうございます。」
少し照れくさそうにお礼を言う炎真。私はその姿を見て少し安心した。何故2人がここにいるのかその経緯を聞くと、どうやら綱吉君の警護に当たっているようだ。今日の担当は紅葉らしい。しかし敵が全く来ないため何故か紅葉と笹川君が勉強対決をしているとか。勉強対決をしているわりには2階で大暴れしているようだが大丈夫だろうか。
『ナッツちゃん、炎真に懐いてるね。』
「そうなんです。エンマ君のこと大好きみたいで。」
『そっか。ふふ、炎真は昔から猫とか好きだもんね。』
「うん…、」
炎真はナッツちゃんを優しく撫で、遊んであげている。らうじはランボ君と遊んであげているみたいだ。なんだか皆が仲良くて嬉しいな。和気藹々としていると凄まじい爆音のような音が2階から聞こえ、家が揺れた。皆で急いで2階に行くとボロボロになっている紅葉と笹川君の姿があった。
「ほん〜の少しはやるではないか!」
「貴様こそごくごくちょっぴりできるようだな。」
「は…はあ…?な…何やってるんですか…?」
「プレートが砕けちまってんな。これでは勉強勝負の続行は不可能だな。中止とするぞ。」
「「しゃあ!!」」
2人は喜び、腕を交わしているがこの惨状をどうするつもりだろうか。綱吉君の部屋がめちゃくちゃになっている。
「触るな紅葉!おバカがうつる!」
「貴様こそだ了平!ドアホウが伝染する!」
『2人が仲良いのはわかったからちゃんと片付けしようね…?』
「「仲良くない!!」」
その後は皆で部屋の片付けを行い、綺麗になった頃には日が暮れていた。
『炎真。』
私は綱吉君の部屋にいる炎真を呼び、部屋から出てもらった。誰もいないことを確認し、炎真の目に付いている眼帯を取る。
『怪我増えてる…。』
「うん…、一昨日の放課後ちょっとね、…。」
『ごめん…昨日会えたら治せたのに…。』
「花莉が謝ることじゃない。」
私は炎真の右目にかざし、怪我を治した。あまり大きな傷ではないからこうやってすぐ治すことはできるけど、大きな傷だと完全に治せる保証はない。時間がものすごくかかるか、完治まで至らないかのどちらかだ。
「花莉は僕みたいな弱い男は嫌い?」
『炎真を弱いと思ったことないなぁ。炎真は私を救ってくれたから…。』
「!!…花莉。」
ぎゅっと炎真に抱きしめられ、少しだけどきりとした。前は私の方が背は大きかったけど今では同じくらいだ。体も少し男の子っぽくなっていて、男の子の成長の早さを感じた。
『そろそろ帰らなきゃ。』
「じゃあ送っていく。」
『本当?ありがとう。一緒に帰ろう。』
「うん…。」
綱吉君と綱吉君のお母さんに挨拶をして、私と炎真とらうじは帰路を共にした。とても充実した1日だった。継承式まであと5日だな。無事に迎えられるといいけど。