それは結構わかりやすい

『はあ、』

「何ため息ついてるの。」

『だって何も休日に呼び出さなくても…、』

「昨日は休みをあげたでしょ。」

『もらいましたけど!もう1日欲しかったですよ!』

「うるさい黙ってやって。」

『うう…横暴…。』

しくしくと泣きながらパソコンと向き合う休日。なんと悲しきことか。朝メールを見てみれば、無情な登校命令が下されていた。委員長は学校が大好きだからいくらでも並中にいても平気かもしれないけど私は委員長ほど愛してないから普通にきつい。学校は好きだけど休日までいたいとは思ったことがない。

『なんか外騒がしいですね。』

「草食動物達が何かやってるみたいだよ。」

『え!ちょっと見てきてもいいですか!』

「………、」

『お願いします委員長!ちょっとだけだから!』

手を合わせてお願いをすると、委員長は短かなため息をついた。だ、だめかな。

「戻ったらすぐ仕事してよ。」

『わかりました!ありがとうございます!行ってきます!!』

私は立ち上がり応接室を後にした。運動場へと向かうと綱吉君や武君、薫の姿もあった。

『みんなー、何してるのー?』

「花莉先輩!今"みんなで野菜になって水野のあがり症なおそうぜ作戦"の最中なんっすよ!」

『ええと、なんとなく把握。』

皆何やらちくちくと衣装を縫っている。詳しく話を聞くと、薫が人に対して明確な野菜のイメージを持つために皆が野菜の衣装を着るらしい。今はその衣装の手直し中だと言う。

『私も手伝ってもいい?』

「ありがたいっす!な、水野!」

「ああ、ありがとな花莉。」

少し涙ぐむ薫になんだかこっちもじーんとしてしまう。武君は薫と真っ直ぐに向き合っている。それが私も何より嬉しい。

「そういえばなんで花莉先輩学校にいたんですか?」

『よく聞いてくれた綱吉君。実は委員長に呼び出しくらってね。休日も風紀の仕事だよ。』

「ええーー!?休日もですか!?」

「花莉、やっぱり粛清委員会に入った方が…、」

『炎真…それ絶対委員長の前で言わないでね。私咬み殺されちゃうから。』

今では粛清委員会の粛という文字が出ただけで怒られそうだ。さらにまた勧誘を受けたと聞いたら今度こそ咬み殺されてしまう。炎真にしっかり口止めをして、私は衣装の縫い合わせに集中した。

「はひ!これで全部完成です!それじゃあ始めましょう!」

「ガンバレ!!ガンバレ!!」

「カ・オ・ル!!」

皆はそれぞれサイズに合った野菜の衣装を着て薫を応援する。ちなみに私はきゅうりだ。野菜だらけの異様な光景に笑いそうになったが、なんだか楽しい。薫はあがらずに大きく振りかぶって球を投げた。その球は驚くほど速く、そして力強い球だった。

「!!…あれ?」

『ボール消えちゃったね…。』

「はひぃ!すごいです!」

「すげぇな薫!ちゃんと投げられたじゃねえか!」

「ありがとう…みんな…。」

これで薫のあがり症は少し克服出来ただろうか。克服出来てなくても、きっとこの時間は無駄じゃない。薫にとってとても意味のある時間になったと思う。

『ふふ、』

「どうしたの花莉。」

『ううん、皆が仲良くて嬉しいの。』

「…………そっか。」

私はきゅうりの衣装を脱いで綺麗に畳んだ。さあ、そろそろ戻らないと委員長に怒られる。もう戻ろうとした瞬間、あの少し低い声が運動場に鳴り響く。

「星影花莉。」

『いっ、委員長…、』

「いつまで遊んでるつもり?」

『すすすすみません!!今戻ります!』

私があまりにも戻ってこないから委員長が直々にお迎えに来てしまった。やばい、こんなに群れているところを見られたら全員咬み殺される。私は急いでその場を離れようとした。すると、ぐんと腕を引かれ、体が後ろに傾く。

「!」

「花莉、ごめんさっき針が指に刺さっちゃって。」

『えっ、あっ、うん。ちょっと待って。今治すから。』

急に炎真が腕を引くものだから驚いた。それに少し顔が怖いな。怒ってる…とは少し違うようだけれどどうしたのかな。私は炎真の指に触れ、傷を治した。

「ありがとう。引き留めてごめん。」

『大丈夫だよ。またね。』

私は炎真に背を向け、委員長の側に駆け寄った。すると、委員長は私の腰を勢いよく抱き寄せる。

『ぎゃっ!?』

「…、」

「…、」

「炎真と雲雀の奴、おもしれーことになってんな。」

「は?何言ってんだよリボーン。」

「罪な女ね、花莉。」

いやいやいや、委員長すごい力で腰を締め付けてくるんですけど!!し、死ぬ!絞め殺される!!

『いだだだ!委員長死ぬ!死んじゃいます!!』

「これくらいじゃ死なない。行くよ。」

委員長はパッと私から手を離し、スタスタと歩いて行ってしまう。私は急いで彼の背を追いかけてその場を後にした。

「あの人、花莉と仲良いの?」

「ヒバリさん?あー、仲は良いのかな。花莉先輩は唯一ヒバリさんの近くにいる女の子だよ。どうして?」

「…なんでもない。」