始まりを告げる音



気がつけば、そこは暗い部屋の中だった。いや、部屋というのかわからない。自身にあたるスポットライトの周辺以外は暗闇で先が見えないのだから。夢だけど、私の夢の中じゃない。そして未来を視ているわけでもない。だったらこれは何だというのだろうか。

「星影花莉。」

私の目の前で突然スポットライトに照らされた仮面の男の人が現れた。彼の夢なのだろうか。不思議と冷静な自分がいる。

『誰…ですか…?』

「誰、とはよく言ったものだ。まぁ無理もない。お前が見たのはネブローサのほんの一部の記憶。」

『ネブローサさんを知っているんですか?』

「知っているも何も、ネブローサは私の同胞。そして、お前もまた私の同胞だろう。」

『何の話を…、』

「ああ、まだこの話をするには早い。」

同胞とはどういうことなのだろう。彼は椅子から立ち上がり、私の側へと立つ。仮面の奥の瞳にはどんな感情が隠れているのか、私にわかるはずもなかった。

「再び虹の運命が廻り始める。お前にはその役割を果たしてもらわねばならない。見届け、そして選べ。それが星空の娘お前の役目。」

『私の…、役目……。』

***

『って言う夢を見たんですよ。』

「……………へぇ。」

『委員長?途中から話聞いてませんでしたね?』

「よくわかってるじゃないか。」

『なんでそんな堂々と…、』

書類整理の片手間に話した夢の話だったが、委員長があまりにも興味がなさ過ぎではないだろうか。炎真の時のような未来を視たわけではないから別にいいのだが。

「君に危害を加えるようなものだったら咬み殺すけど、そうじゃなさそうだからね。」

『!』

一応心配はしてくれているみたいだ。そうわかっただけで心が軽くなる。単純なだとわかっているけれど、彼の一言で私の心はいくらでも左右されるのだ。

そんな浮き足立つ日の一限目終わりの休憩に、綱吉君に屋上へと呼び出された。屋上のドアを開けると、綱吉君、隼人君、武君、笹川君、リボーン君、そして並盛中の制服を身に纏うクロームちゃんの姿があった。

「花莉先輩!すみません来て貰っちゃって…、その、クロームが、」

「花莉…様…、」

大きな宝石のようなまん丸の瞳がじわじわと滲んでいく。ぽろりと溢れた涙があまりにも痛々しくて、ズキリと心が痛む。そっと彼女に寄り添い、頭を撫でた。すると彼女は私に抱きつき、震えながら静かに泣いた。

「追い出されたんだってよ、骸の野郎に。」

「花莉先輩何か知ってますか?リボーンはクロームの生活費を渡されたらしいんですけど…、」

『詳しいことはよくわからない…、でも何か事情があると思うんだ……何かはわからないけど…。』

この間会った時、クロームちゃんが要らなくなったようには感じなかった。何か事情があって、仕方なく置いていくようだった。

『クロームちゃん、骸君を信じよう。もし本当にクロームちゃんを捨てたなら私が責任を持って骸君に平手打ちするよ。そしたら私の所においで。』

「!!…ありがとうございますっ…、」

「ハハッ!あのXANXUSにもした花莉先輩の平手打ちか〜!」

『武君!?それに触れるのは御法度だよ!?』

「極限に恐ろしいな!!」

『さっ、笹川君まで!?』

屋上が笑いに包まれた。クロームちゃんも僅かに笑っていて、それだけで十分だと思った。二限目が鳴るチャイムが鳴る。授業に行かなければ。クロームちゃんは私から離れ、少し恥ずかしそうに屋上を後にした。そのあとをついていくように隼人君達も出て行った。

『あ、』

一応夢の話をしておくべきだろうか、そう思ったが綱吉君とリボーン君が何かを話していた為やめた。そう急ぐ話でもないだろう。また機会が話すことにしよう。私はそう思い、屋上を後にした。

また一波乱起こることも知らずに。