夕焼け色に染めて
『え、今日は放課後お休みですか?』
「うん、急ぎの案件もないからね。たまには羽を伸ばすといいよ。」
『そう…ですか…。わかりました。』
「…話は終わり。教室に戻りなよ。」
『はい…、』
朝の仕事が終わり教室に戻ろうとしたら放課後は来なくていいと言われた。羽を伸ばせと言われたけど委員の仕事は苦ではないし、仕事がないはないで暇なのだ。それに委員長といるあの時間が何より楽しみなのに。なんて言ったら仕事に集中しろって怒られるのかな。とにかく委員長に来なくていいと言われた以上応接室へはいけない。
『何しようかなあ。』
***
「ご、ごめんね花莉。付き合ってもらって。」
『大丈夫だよ。今日は委員お休みだし。』
「そうなんだ。珍しいね。」
放課後、何をしようかと学校をフラフラしていたら2年の教室に炎真だけが残っていた。何をしているのか聞いたところ、先日のテストで言えない点数を取ってしまった為、補修のプリントをやっていたらしい。わからないところで躓いていたところに私が偶然通りかかって今に至る。
『そこ、xを代入して……、』
「あ、そっか。こうなるんだ。」
『炎真飲み込み早いよね?本当にテストの点悪かったの?』
「花莉の教え方がうまいんだと思うよ。」
『褒め上手だなあ。』
最近はもう日が傾くのが早くて、窓から夕日が見えた。夕焼け色に染まる炎真の少しはねた髪をそっと触ると彼は顔を上げて優しく笑った。
「どうしたの?」
『ううん、炎真の髪が夕焼けに染まってるから綺麗だなって。邪魔してごめんね。』
「邪魔なんかじゃないよ。…ふふ、花莉の髪も夕焼け色になってるよ。」
なんだか照れくさくなって視線を窓の外へうつした。窓から見える夕日があまりにも綺麗なものだから、魅入ってしまう。
「………綺麗だね。」
『うん、夕日綺麗だね。』
「違うよ。」
『え………?』
ならば何を綺麗と言ったのだろうか。私は再び炎真に視線を戻す。すると彼は真剣な顔で私を見ていた。
「花莉が綺麗だって言ったんだ。」
『炎真……………?』
炎真の左手が私の頬に触れる。優しい指先がゆっくりと頬を撫でた。炎真の顔が少し赤く見えるのは夕日のせいなのかそれとも違う理由なのかはわからない。
「今だけじゃない。花莉はずっとずっと綺麗だよ。」
『ど、どうしたの突然…っ、』
「今まで恥ずかしくて言えなかったから。でももう大丈夫。ちゃんと伝えられるよ。」
『こここここ心の中でいいよ!?て、照れるし…、あの、どうしたらいいかわからなくなる…、』
「照れてる花莉も可愛いね。」
『炎真!?話聞いてる!?』
炎真も少し恥ずかしそうにはしてるけど、遠慮がない。そして私の話を聞いてくれない。そんな風に言われるとどんな顔したらいいかわからなくなるし、照れてしまう。
「僕にもまだ入る余地があるのかな…。」
『な、何が……?』
「な、なんでもない!もうプリント終わるから!!」
『う、うん!!!』
炎真もさすがに恥ずかしくなったのか私からパッと手を離し、急いでプリントに取りかかった。私は少し熱くなった頬を両手で押さえ、また窓の外に視線をうつした。きっと胸のあたりがドキドキするのは気のせいだろう。
その後、プリントを終わらせて提出した炎真と学校を後にした。委員がないのは寂しいけど、こんな日があるのも悪くないと思えた放課後だった。