優しさは誰の為か
「何が虹だ。絶望の道へかける橋など不要。いつか必ず…、」
悲しい言葉だった。怒り、悲しみ、憎しみ、絶望。全てが心を侵していく。涙が止まらない。
「何故泣いている。夢の中ですら涙を流すとは…。」
『貴方は…、』
私の目の前に現れたのは仮面の男性だった。以前にも夢に出てきた彼だ。零れ落ちる涙を拭うが、とめどなく溢れてきてしまう。あれは一体誰の感情だったのだろうか。
「これから虹の代理戦争が始まる。」
『代理戦争…?』
「アルコバレーノが代理を立てて戦うのだ。呪いを解くためにな。お前は最終的に私の力になってもらわなければならない。」
『貴方の力に…?』
「詳しい話は今は出来ない。後に代理戦争についての説明があるから待っておくといい。」
『…、』
「花莉、些細な事で涙を見せるな。これから起こる戦いには特に不要なものだ。キリがないぞ。…次会う時は代理戦争が終わった時だろう。」
***
「花莉。」
『リボーン君。どうしたの?』
「話があるんだ、いいか?」
『うん。わかった。』
私は購買で買ったパンを持ち、教室へ戻ってる途中でリボーン君に話しかけられた。何故リボーン君がいるかはわからないが、私はリボーン君と共に屋上へと向かう。
『どうしたの?』
「お前、代理戦争については聞いたか?」
『!!どうしてそれを…、』
リボーン君からただならぬ空気を感じた。そして代理戦争に関する話を彼から聞いた。この虹の代理戦争ではアルコバレーノの1人のみ呪いを解くことができること、そして大切なおしゃぶりが壊れることのないようアルコバレーノがそれぞれ代理を立てて、その代理が戦うこと。そして全てのアルコバレーノがその条件に承諾したこと。そして、
『私は代理として成立しない…?』
「ああ、お前は星空の娘だからな。この戦いには平等じゃなくちゃならねえらしい。まぁ最初からお前に頼むつもりの奴はいねえがな。」
『どうして…?』
「お前が傷つくところなんて誰も見たくねえ。だがこの戦いはお前が悲しむことになるだろうな。どちらにせよ傷つけちまう。」
自身の呪いのことなのに、私のことまで気遣ってくれるなんて。どうしてリボーン君はそこまで私を守ろうとしてくれるのだろうか。
『どうしてリボーン君は私に優しくしてくれるの?』
「男が女に優しくするのは当たり前だろ。まぁそれだけじゃねーがな。」
『?』
「気にすんな。お前は自分のことだけ考えてろ。代理戦争に巻き込まれて怪我すんなよ。」
『が、頑張る。』
「ふ、あと今晩ディーノとツナとホテルで飯食うけど一緒にどうだ?ディーノが花莉も誘ってくれって言っててな。」
『行っていいの?』
「ああ、ディーノの奴にも伝えておくぞ。18時になったらうちに来い。」
『わかった。ありがとう。』
こうして私はリボーン君と別れいつもどおり1日を過ごした。委員終わりに綱吉君の家へ寄り、その後ディーノさんと待ち合わせているホテルへと向かった。
「着いたぞ。ディーノとの待ち合わせ場所に。」
『え…、』
「うわっ!!」
そのホテルは9代目も止まったことのあると言う超豪華なホテルだった。どうやらディーノさんの部下の人が間違えてとってしまったらしい。中へ入るとスーツを着たディーノさんが私達を迎えてくれる。
「よく来たな。たまには元・家庭教師と弟分と花莉にいいとこ見せねーとな。腹いっぱい食ってけよ。」
「はい!」
『ありがとうございますディーノさん。』
「本当は間違えて3人分多く注文しちまったんじゃねーのか?」
「メシはちげーよ!」
スーツでいつもと雰囲気は違うけれど、中身はいつもと変わらないディーノさんに少し安心してしまった。豪華絢爛なホテルに圧倒されて緊張気味だったけど緊張がほぐれた。
「そういやお前他にもサプライズがあるって言ってたじゃねーか。」
「…ああ、それがな…聞いて驚くなよ。なんとこのホテルにオレ達の他に…、」
「ひゃっほーーー!!!」
『!?』
このホテルには似合わないなんとも楽しそうな声が聞こえ、後ろを向いたその直後。隣にいた綱吉君が一瞬で消えてしまった。
「借りてくぜっ!」
「ぐへっ!」
「ちょ…、おい!!」
『べ、ベル様!?』
綱吉君は突如現れたベル様に抱えられて誘拐されてしまった。なんでここにベル様がいるのか何となく察してしまった。
「なるほどそういうことか。」
「わかったか?」
『ヴァリアーがここに…?』
「正解。俺から離れんなよ花莉。」
『は、はい!』
ヴァリアーと対面するのは継承式以来だなあ。あの時はスクアーロさんと少し話をするくらいで指輪争奪戦以来話していない人もいる。あ、でも未来に行った時に10年後の皆とは話せたんだっけ。
「邪魔するぜ。」
「あぁ?てめーか。」
スーパースイートの部屋に入るとお酒を嗜むスクアーロさん、筋トレをするルッスーリアさん、そして裸の…、
『ぎゃー!!変態ー!!』
「誰が変態だ小娘!!」
「てめーだ。花莉に汚えもん見せんじゃねー。」
「グハッ!!!」
思わずディーノさんの後ろに隠れた。見てない、私は何も見ていない。そう言い聞かせているとリボーン君がもう大丈夫だぞ、と声を掛けてくれる。そっとディーノさんの後ろからのぞけばすでにレヴィさんは倒れていた。下半身に布をかぶせられて。
『はあ…びっくりした。』
「久しぶりだなぁ花莉。」
『す、スクアーロさん。お久しぶりです。』
「沢田なら奥の和室だ。」
「行くぞ花莉!」
『はい!』
ディーノさんとリボーン君と急いで奥の和室へと向かう。勢いよく戸襖をあけると尻餅をつく綱吉君の姿とその奥で綱吉君を睨むXANXUSさんの姿があった。
「この代理戦争でてめえをかっ消す!!」
「え"え"え"!!オレエ!?」
気の毒だな綱吉君…。なんて思っていると、突然XANXUSさんが天井を銃で撃ち抜いた。すると天井から細身の男性が笑いながら降り立つ。
「何者だぁ!!」
「フフフフッ、結果オーライヒヒヒヒッ!うっかりみなさんの部屋番号を忘れてしまって、へへッ。外から覗いて探していたんですフフ。」
ヘラヘラと笑う男性に皆武器を構えていた。ディーノさんが私を守るように私の前に立った。
「私は虹の代理戦争を企画した者の遣いで尾道と申します、フフッ。虹の代理戦争をより具体的に説明しに参りました、ハハッ。」
ざわつく胸を押さえながら私はジッと尾道さんの言葉を待ったのだった。