君を好きだと告げた

「やぁ、花莉ちゃん。久しぶりだね。」

休日の朝、重たい瞼を開けて一番最初に目に入ったのは白色だった。

『…。』

「あれ?無反応?」

おーいと私の目の前で手が振られる。私はどうやら夢を見ているようだ。まさか私の家に白蘭さんがいるわけがない。そう、白蘭さんが―――、

『!!!?!?』

「あ、やっと起きたね花莉ちゃん。おはよう。」

やっと頭が覚醒して布団から飛び起きた。この現実を受け入れようと頭が働くが、混乱しないわけがない。ふよふよと小さい龍と一緒に私の部屋を飛ぶ彼にうまく言葉が出てこなかった。

『びゃっ、びゃっ、白蘭さん……!?』

「うん、久しぶり。いやこっちでは初めましてか。」

未来の彼と変わらない顔で笑う目の前の彼。一体なにがどうなっているのだろうか。確かこの時代の白蘭さんはボンゴレの管理下に置かれていると聞いた。その白蘭さんが今私の目の前にいるということはもう大丈夫ということなのか。

「いやあ、早く花莉ちゃんに会いたくて逃げてきちゃった。」

『何やってるんですか!?』

「大丈夫、ちゃんとここに入るときはピンポン押したよ♪花莉ちゃんの保護者にもお許しもらったし。寝ている花莉ちゃんには指一本触れない約束でね。」

勝手に触ってないから安心して♪と笑いながら言う彼に脱力した。彼が未来の彼ではないことはわかる。雰囲気も柔らかくなったような気もするし、瞳の奥に優しさを感じる。だからなんとも緩い空気感になってしまってあまり緊張しなかった。

「実は今回代理戦争に出ることになったんだよ。ユニちゃんの代理でね。」

『ユニちゃんの…?』

「そう。そしたらγ君がね…、」

ケタケタと笑いながら白蘭さんは今までの経緯を話し始めた。まさかユニちゃんの代理だなんて驚いたけれど、やはりあの夢の影響だろうか。

「ってことなんだけど…、」

『そうだったんですね。』

「…、」

『な、なんですか…?』

「いや、どうしてそんなに普通でいられるのかなって。」

『え、』

「未来の僕は君に酷いことを沢山したからね。きみに恨まれてても仕方がないでしょ?それなのに君はこうして僕に怯える様子もないし、恨んでるようにも見えない。どうして?」

いつものにこにことした笑顔は消えて、本当に理解できない、と白蘭さんの顔に書いてある。確かに未来では白蘭さんに酷いことを沢山されたけれど、私にとって今の白蘭さんには関係のないことなのだ。

『未来の白蘭さんは未来の白蘭さんで、今の白蘭さんは今の白蘭さんですから。』

「!」

『今の白蘭さんに酷いことされてないですもん。』

「そういう問題?」

『そういう問題です。それに白蘭さんのこと恨んでたらいくら夢とはいえあんな長い時間一緒にいませんよ。そこまでお人好しじゃありません。』

私がそう言うと、彼はきょとんとした後に大きく笑った。

「プッ、アハハハッ!!さすが花莉ちゃん。ふふっ、だから君には飽きないんだよね。」

『バカにしてません!?』

「してないしてない。あー、笑った。ねえ、花莉ちゃん。手を握ってもいい?」

『え?あ、はい。』

私は片手を遠慮がちに出すと、二つの大きな手が私の手を包み込んだ。その手があまりにも優しくてなんだか恥ずかしくて逃げたくなってしまった。

「あのね、花莉ちゃん。未来の僕と今の僕は違うって言ってくれたけど一つだけ同じことがあるんだ。」

『なんですか…?』

「君への気持ちだよ。」

『!』

「まぁあんな風に歪んでないけどね。でも、君のこと大好きだし、傷つけた分沢山甘やかしたいし優しくしたい。」

胸の鼓動が早くなっていく。だって彼があまりにも優しく笑うから。彼の温もりが伝わって、体に熱を帯びる。どうかこの心臓の音が彼に伝わらないように願った。

「花莉ちゃんに大好きな人がいるのはわかってるよ。まぁその気持ちが僕に向いてくれたら嬉しいかな。君を一番大切にしたいって気持ちは誰にも負けないつもりだよ。」

『あ、あの、』

「ふふっ、顔が真っ赤だね♪」

彼は笑いながら私の手を離した。そしてゆっくりと立ち上がる。私は顔を上げることができなかった。

「そろそろ帰るよ。あんまりいると怒られちゃうからね。またね、花莉ちゃん。」

『待っ、』

顔を上げた時には、窓から強い風が吹くだけで白蘭はすでにいなくなっていた。ふわりと目の前に落ちた白い羽をそっと拾う。その羽はすぐにさらさらと煌めいて消えていった。

『白蘭さん…、』