自由を求めて

リュウグウ王国の領土内で生まれた私は、真珠と名付けられた。両親の愛情を注がれて育っていた。

人魚族は30歳を超えてから二股になり地上で歩くことが出来る。それまでは地上では歩くことができない。しかし私は尾ヒレが空気に触れ、乾いてしまうと下半身が人間の足になってしまうのだ。明らかに異常だった。尾ヒレが二股になるならまだ余地があったが、私の下半身は人間の足になってしまうのだ。両親はその事実を隠し続けた。決して、その尾ヒレを乾かしてはならないと私に言い聞かせて。だが限界があったのだ。ついに私が異常であることがバレてしまい、人間を憎む者たちに両親を殺され、その事実は王宮に届くことなく時間と共に消えてしまった。

捕らえられた私は海底の奥深くの洞窟に枷で繋がれた。これは罰なのだと自分に言い聞かせた。私が生まれて来なければ両親が死ぬことはなかった。この罪を背負って、私はここで生き絶えていくのだと覚悟もしていた。ただ、どうしても許せなかった。両親を殺した魚人達は両親を人魚族の恥だと嘲笑ったことが。フツフツと湧いてきた怒りが爆発するのは簡単だった。その怒りと同調するように洞窟の外でどこからか出てきた海王類達が魚人達を囲み、喰い殺してしまった。何故…、そう呟くと海王類は私の問いに答えた。答えること自体おかしいのだ。本来海王類と話すことなんて出来ない。出来るはずがない。なのに何故私は海王類と言葉を交わすことが出来るのだ。その答えも海王類が全て教えてくれた。私が海に選ばれた者なのだと。

とは言っても海王類が私を洞窟から出してくれるわけもなかった。魚達が持ってきてくれた貝などを食べて命を繋ぎ、何年も経った。手首の枷も錆びてボロボロになっている。何年も縛り付けられていたからか、私の中である変化が起きた。


自由になりたい。
外の世界を知りたい。
知恵が欲しい。
力が欲しい。
もう、誰も傷つけないように。


そう考えているうちに枷は壊れて外れた。やっと自由になれたのだ。洞窟の外へ出ると、私の目の前には海王類達が待ち構えていた。

「<我、王よ。>」

「<海を憎み、進むか。>」

『…………きっとまだ許せないと思います。それでも嫌いにはなれません。私を愛してくれた両親が愛した場所だから…!』

「<王よ、この実をお召し上がりください。>」

『これは…?』

「<悪魔の実と呼ばれる者。これを食べてしまえば、海から嫌われてしまうと言われている。だが、王ならこの実を食べても海で泳げなくなることはない。>」

「<きっと王の行く道の支えとなるでしょう。>」

『ありがとうございます。いただきます。』

その身を口に含むと、途端に広がる酷い味。思わず吐き出しそうになるのを我慢しながら全て平らげた。見た目などに特に変化はない。普段通りに泳ぐことが出来る。

『…っ!?っ、…っ!!!』

影響がないわけがなかった。声が出なくなってしまったのだ。これは海の中だけなのだろうか。そんな変化に戸惑いながらも私は陸へ上がる覚悟を決めていた。

「<王の力を利用せんとする愚かな者達は必ずその道の妨げとなる。>」

「<その誇り、見失うべからず。>」

「<その道に迷った時は必ずお力になりましょう。>」

「<いつか訪れるその時まで…、>」

『(ありがとうございます…、)』

遠くなる海王類の背中を見据えながら、私は決意した。

この身体も、心も、感覚も、感情も、常に縛られることなく、自由でいること。何かに囚われることなく、大きな懐を持ち続けること。

その自由は誰にも邪魔させない。そう誓ったのだった。