スモーカーさんと

『♪〜♪〜♪〜』

風に音を乗せて、今日も歌を歌った。全ての人に祈りを込めて。この海に、平穏が訪れますように、と。

「テメェコラ真珠!!!」
『ひえっ、なんですかスモーカーさん』
「何度歌うなと言ったらわかるんだテメェ!!海兵達が眠くなるからやめろ!」
『ち、力は使ってないです…!ほら!海楼石!』
「力を使ってなくてもテメェの歌は眠くなんだよ」
『あっ、疲れが溜まってるんじゃないんですか?子守唄歌いましょうか?』
「ほぉ…、テメェいい度胸じゃねぇか」

十手を片手に今日もまた怒号が海軍本部に鳴り響く。またか、と笑う者や呆れる者が多く、最近では海軍本部の名物として有名になっていくのであった。

『うぅ…、私は歌わないと生きていけないんです…』
「黙ってろ。歌わなくても死なねェ」
『いつになったらここから出れますか?』
「お前の身元がわかり次第だって何度も言ってんじゃねぇか。出たかったらさっさと記憶を取り戻すんだな」
『……そう、ですね…』

スモーカーさんから腕の枷へと視線を移す。腕にはめられた海楼石は信用されていない証拠。この海軍本部で能力者が力を使えないように制限する枷。

「んな顔すんじゃねぇ。記憶を取り戻せばここから出れる」
『わわっ、』

大きくて硬い手に頭を乱暴に撫でられる。人の温もりに触れてこなかった私にはどうもその感覚はむず痒くて、酷く安心してしまいそうになる。スモーカーさんは私に再三歌うなよ、と念押しして部屋を出ていった。

『はぁ…、』

記憶がないなんて嘘をつくんじゃなかったと今更後悔している。そもそも私が海賊に誘拐されそうにならなければ海軍本部になんて訪れることはまずなかった。被害者の身元の確認ということで、私も身元を調べられたのだが人魚族の上に色々な島を転々としているため自分の身分証明をするものが何一つ見つからなかった。それを怪しんだ海軍に危うく尋問されそうになり記憶喪失だなんて嘘をついてしまった。そして中途半端に能力者ということだけ明かすと海楼石の枷を腕にはめられてしまいこのザマである。自由になりたくて陸へ上がってきたのにあんまりだ。

だからと言って人魚だとは言えない。まだ18歳の人魚が人間の足を持って陸で生活することが出来るなんて聞いたことがない。昔私を捕まえた魚人達ですら異常だと非難した。私自身何故こうなっているのかはわからない。わかるのはこの事実を人間に知られてはならないということ。きっとろくなことにならないのだから。