クザンさんと

「来るぞ。あと1分だ」
「もうあれを聞かないとどうも一日が始まらないんだよなぁ」
「おい静かにしろ!聞こえないだろ!」

午前8時50分、鳴り響くのは人魚の調べ。

『♪〜♪〜♪』

「はぁ、今日も綺麗な歌声だ…」
「まるでローレライだな。」
「まだ彼女を見たことないんだよ」
「大半のやつが見てないらしいぞ。ここに来てから部屋から出てないからな」
「なんでも人魚のように美しいらしいぞ」
「一回でもいいから拝みてぇよなぁ」

海兵達の噂は、真珠が来た日から途切れたことはなかった。美しい歌声の少女が海軍に保護されたという話で持ちきりだ。その姿は大半の海兵が見たことがなく、謎に包まれていた。しかし毎日決まった時間に美しい歌声を響かせており、海兵の中では"ローレライ"と呼ばれていた。

『♪〜♪〜♪…ふぅ』
「今日もいい歌声だねぇ、ローレライ」

窓辺で歌い終わると、背後からゆっくりとした拍手が聞こえた。振り向くとドアの近くでクザンさんが立っていた。

『む、クザンさん。その呼び方はやめてくださいってのがこの間言いました』
「ぴったりな名前じゃねェか。これでも褒めてんのよ?」
『それは褒めてないです!ローレライって歌声で誘って舟を海に引きずり込んじゃうんですよ…!』
「真珠ちゃんならおっさん引き込まれてもいいな〜」
『引き込まないので安心してください』
「アララ、冷たいね〜。で、なんか思い出したのか?」

クザンさんの問いかけに私は首を横に振った。三大将クザンさん、通称青雉。スモーカーさんのことを気にかけてるらしく、その流れで関わりを持った。"だらけきった正義"をモットーにしているみたいだが本当にその通りだ。しかし戦いでは本当に強いらしい。

「手掛かりもないから思い出しようもねぇよなぁ。早くここから出たいか?」
『………縛られるのは嫌いです」
「こっちも幼気な少女を監禁まがいなことをするのは気がひけるんだけどさぁ。その能力がイマイチ解明出来てなくてね。さらに身元も不明じゃ海軍として見逃せないでしょ?」

それは少し棘のある言葉だった。民の平穏を守るために少しでも疑いのある者は徹底的に根絶やしにすること。海軍として当たり前だ。

『分かってます…』
「まぁ外出許可くらいならそのうち出るだろうから気長に待ちなさいよ」
『それもそうですね』
「お、随分あっさりしてるじゃないの。まぁ、海軍に入るのが一番てっとり早いと思うがな。」
『縛られるのは嫌いです』

きっと私がモットーにするなら"自由な正義"とかになるんだろうな。海軍には入らないけど。