次に咲く君達へ
「オーディション、人来てくれますかね…。」
「かえでと同じこと言わないでください。前回はどうだったんですか?」
「俺一人でした。」
「マンツーマンでしたね。」
「何も聞かれずに即、「採用」って言われました。」
『支配人さん!?流石に適当過ぎますよ!?』
支配人さんのあまりの適当さに驚いた。咲也君だったから良かったものの、変な人だったら大変だ。
「こんちはー。」
「どーも。」
「あ、いらっしゃい!二人とも、来てくれたんだね。」
「一成君、幸君!?」
『来てくれてありがとうございます、二人とも。』
「かえでちゃん!今日もかわうぃーね!今日こそLIME交換しよ!」
『はは…、そういうのはオーディション終わってからお願いしますね…。』
「終わってもダメ。」
「出たセコム。」
「今日もセコムは健在ネ!」
相変わらずテンションの高い三好さんに最近は慣れてきた気がする。敵意剥き出しの真澄君を周りが落ち着かせながら話が進んだ。三好さんは迷わず劇団に入ってくれるみたいだ。瑠璃川君は迷っていたが、衣装係兼団員と所属を決めてくれた。
「ゆっきーって言うんだ!かわいーね!俺、三好一成。連絡先交換しよ!」
「…ちなみに俺、男だから。」
「そうなんだ?かわうぃーねっ!」
「…このコミュ力高男と同じ組?」
「う、うん。でも大丈夫!悪い子じゃないから!たぶん!」
「…たぶん?」
皆でワイワイ話をしていると、かすかだが何か声が聞こえた気がした。周りを見渡すと、入口の近くで困った表情をした男の子が立っていた。男の子の手にはチラシが握りしめられている。そっと近くに行き、話しかけた。
『は、はじめまして。副監督の、立花かえでと申します。そのチラシを見て、来てくれたんですか…?』
「は、はいっ!」
『ありがとうございます。こちらへどうぞ。』
だ、大丈夫だったかな。変じゃなかったかな。初めての人だったから緊張したけど、噛まなかったから少しだけホッとした。
『おね…監督。オーディション希望者の方が来ました。』
「えっ、かえでさんが対応したんすか!?」
「成長したね。偉い偉い。」
『い、至さん甘やかさないでください!』
至さんに頭をポンポンと撫でられたが、こんなことで褒められるなんて甘やかされてるのが他の人達にバレたら副監督としての威厳がなくなってしまう。いや、もともと威厳のカケラもないけれど。
「向坂、オーディション受けるの?」
「え?瑠璃川君…………!?」
「幸君の知り合い?」
「同級生。」
同級生が同じ劇団のオーディションを受けに来るなんてすごい偶然だ。同級生がいるだけで、きっと気持ちも楽になるはずだ。リラックスしてオーディションを受けてくれることを願った。
「それじゃあ、ひとまずオーディションを始めようか。幸君と一成君も一緒に参加してくれるかな。」
「りょ。」
「わかった。」
『私入口のドア閉めてくるね。』
私は開けっ放しになっている劇場のドアを閉めに行った。グッとドアを手前に引くが、何故か途中でそのドアが動かなくなる。それどころか私の意思とは反してドアが開かれていってしまう。その勢いに体は前へと倒れてしまった。
『へっ……?』
「うおあっ!」
『わわっ、』
ばたーん!と大きな音を立てて倒れたわりには全然痛みがなかった。咄嗟に詰まった目を開けると、視界にはオレンジ色が。
『ご、ごめんなさい!!大丈夫ですか!』
「っ、お前!この俺の顔に傷でもついたらどういうつもりだ!!」
また一つの花が、このMANKAIカンパニーへと舞い込んだ。その花がどんな風を運んでくれるのか、この時の私には分からなかった。