不完全な花
「ったく、入って早々、押し倒されるとは思わなかった。」
『本当にごめんなさいっ…!』
90°を超えるくらい目の前の彼に頭を下げた。初対面の人を押し倒すなんて本当もう穴があったら入りたい。
「ごめんね、この子もわざとじゃないの。君もオーディション参加希望?」
「そうだけど、アンタは?」
「監督兼主宰の立花いづみです。よろしくね。」
「ふうん、随分若いんだな。」
お姉ちゃんを頭の頂から爪先までじっと見た後に、その視線を私へと向けてきた男の子。
「お前は。」
『(お前…、)副監督の立花かえでです…。』
「そうか。覚えたからな。」
『ひっ、は、はい…。』
しばらく彼には頭上がらないなぁ。と、しょぼんとこうべを垂れていると至さんが傍で大丈夫だよ、と励ましてくれた。なんとなく心が軽くなった気がした。
「じゃあここに並んでくれるかな。名前は?」
「ーー皇天馬。」
「!?」
「俺、この人、テレビで見たことあります!」
「超有名人じゃん!スッゲー!」
「皇天馬って、俳優だっけ?」
「子役から始めて、高校生にして芸歴15年の実力派俳優だよ。」
「ふーん。」
「俺のこと知らないとか、どこの田舎もんだよ。」
「はあ?」
どうしよう。テレビとか映画とか全然見ないから誰かわからない。押し倒した上に有名俳優を知らないなんてことが彼にバレたらプライドを傷つけてしまう…!
「お前も知ってるだろ。俺のこと。」
『もっ、ももも勿論です!え、映画とかで!よく見ますよ!』
「…………何の映画で見たか言ってみろ。」
『え………、あ、えーっと、』
「………。」
『すみません見たことありません…。初めてお見かけしました…。』
「だろうな。顔に書いてある。」
今日からテレビをしっかりと観ようと決意した。これ以上皇君に失礼は出来ない。
なんだかんだでこの後にしっかりとオーディションを開催した。演劇経験のない三好さん、幸君、向坂君はそれぞれ良いところがあった。そして実力派俳優である皇君は、やはりプロだった。表情と作り方も声のトーンも誰にも負けないくらいうまかった。人数割れしているため全員合格になったが、皇君が少し納得していない様子だった。うまくやってくれるといいけれど、どうなるかは想像すらできなかった。
これから4人の入団が決まったわけだが、それにあたって、寮に住むか、通うかを選ばなければならない。もし寮に住むにしても高校生と中学生は親御さんの許可が必要だった。三好さんは喜んで入寮を決めた。幸君も親御さんには言っていたみたいで入寮を決めた。向坂くんは少し迷っていたが、親御への電話で強い意志を表し、入寮を決めた。そして皇君も入寮を決め、結局全員が寮に住むことになった。
「これでかえでちゃんのLIME教えてもらえる!?」
『そうですね、連絡の際に必要なので。』
「やったーーー!」
「浮気者。」
『必要なものだから。ね?』
「毎日LIME送るねー!」
「殺す。」
『落ち着いてーーーー!』