部屋争奪戦

「イエー。今日からここが俺の家ーーっと。お、ちょっぱやで、500ええな!ついた!」

「一成君、何してるの?」

「インステにここの写真投稿してたっす。」

『イン…ステ…?』

「写真を投稿して共有するSNSだよーん!かえでちゃんもやる?」

たぶんそのアプリを入れても使いこなせない。万里君にも機械音痴って言われてるし。首を横に振ると、三好さんは「えー!ざんねーん!」と言って笑っていた。

「はい、皆!部屋割りするから集まって!寮は基本的に二人部屋になってて、三部屋を分けて使ってもらうことになるんだけど…、」

「俺は一人部屋以外ありえない。」

「二人部屋っつったでしょ。耳遠いわけ?」

「ああ?」

皇君と瑠璃川君は始終喧嘩をしていた。もうそれは事あるごとに。行き先が不安過ぎて思わずお姉ちゃんと顔を見合わせた。

「ゆっきーには振られたし、むっくん同室しよ〜!」

「え?僕?僕で良ければ、いいよ。」

「やたー!今日からルムメ!」

「よろしくね。」

『二人は202号室使ってもらってもいいですか?』

「ういうい。」

「わかりました。」

私は二人に202号室の鍵を渡した。鍵を受け取った向坂君は少し嬉しそうな表情をしていた。

「流石コミュ力高男…手が早い。」

「じゃ、あとの二部屋をそれぞれ一人で使うってことでいいよな。」

「うん。あとで一人増えたら、また相談するけど、今は一人部屋でいいよ。」

「俺、203号室。」

「なんで勝手に決めてんの。」

『瑠璃川君、201号室でも大丈夫?』

「別にいいけど。」

「だったら文句言うな。」

「お前が言うな!」

『ふ、二人とも落ち着いて…。』

二人の間には見えない火花が飛び散っている。皇君は少し俺様気質だし、幸君ももしっかりと意見が言える子だ。ぶつかり合っても仕方ない。しかし今後ともに芝居をやっていく上でこの状態が続くのは困る。

「203号室……ですか。」

『っ!!!』

「支配人、突然背後から現れないでください!」

「かえでちゃん大丈夫ーっ?」

『だ、大丈夫です。ちょっとびっくりしちゃって…、』

「俺から見てもわかるくらい体がビクってなってたよ!」

支配人が突然背後に現れるものだから心臓が飛び跳ねた。それを見た三好さんが背中をさすってくれて、彼の優しさを感じた。スマートだなぁ。

「すみません……それよりも203号室は、まずいですね……。」

『何がまずいんですか?』

「実は…MANKAIカンパニーには、劇団七不思議というものがありまして…。」

『あっ、私をお掃除係として雇ってくれた時に教えてくださったお話ですか…?』

「どんな話なの?」

『えっと、誰もいないはずの203号室から声が聞こえるみたいなの。だからその部屋には近づかないように言われて、掃除したことない…。』

「それは別の意味で開けるのが怖いよ!なんでそんな重要なこと、早く言わないんですか支配人!」

「二日酔いで…今ようやく起きてきまして…、」

203号室の前は何度か通ったことはあるけど私はまだ声は聞いたことなかった。たまに物音はしていたけど。

七不思議の話を聞いた皇君は瑠璃川君と再び揉め始めた。このままじゃ埒があかない。実際に確かめた方が早いだろう。

『じゃあ私確かめに行ってきます。』

「!?お前、正気か!?」

『真実が不確かだから怖くなってしまうんです。早く真実を明らかにして安心した方がいいじゃないですか。』

「へぇ、意外と逞しいじゃん。」

『皆に安心してここに住んでほしいからね。』

「…っ、わかった。これで変な声が聞こえたら、絶対203号室は使わないからな!」

『はい。』

「どんだけわがままなんだよ。」

「うるさい!」

こうして、私とお姉ちゃんと支配人さん、そして夏組の皆で203号室へと向かった。果たして何が待っているのだろうか。