剣の覚悟と誇り
*シャルルカンside*
王様が手を差し伸べたのは、初々しく可愛い女の子。
まぁ、第一印象はその辺の女の子よりも美人。ただそれだけだった。王様が女を拾ってきたーとか言うからどんなすげー奴を連れてきたのかと思ったら普通の一般人。何がそんなに惹かれたのかよくわからなかった。
「うしっ、じゃあ始めっか!」
『はい!よろしくお願いします!』
「俺のことは師匠と呼べ。」
『はい、師匠!』
ケンドーとか言う剣術をやっていたみたいだが、こんなに細い腕で剣を握ったことがあるのだろうか。
「お前剣は握ったことあんのか?」
『いいえ、私がいつも握っていたのは竹刀です。』
「シナイ?」
『はい、植物で作られた剣です。』
ほらな、こいつは剣のことをまったくわかってない。俺が教えるんだからまぁそこそこ人並み以上には強くなれるけど、こいつのセンスにもかかってる。
「じゃあまずは本物の剣握ってみっか。ほら、これ握ってみ。」
『はい。…あ、やっぱり重いですね。』
「あったりめぇだろ。じゃ、とりあえず俺に本気で打ち込んでこい。」
『えっ、この剣でですか…!?』
「それ以外に何があるんだよ。」
莉亜は戸惑っていた。まぁ、本物の剣でいきなり打ち込んでこいってのはさすがに戸惑うか。だが、俺はこいつの今の力量を見極めないといけない。
「思いっきり来い!」
『っはい!お願いします!』
そう言って剣を構える莉亜。真っ直ぐに俺を見据える視線にゾクリと鳥肌がたった。
『はぁっ!』
莉亜タンッと右足を踏み出して剣を振り上げる。俺は受け止める準備に入った。真っ直ぐに降り下げられた剣は、思った以上に…、
「(重てぇっ!)」
『はぁっ!!』
見たこともない流儀に久しぶりにワクワクした。それにこいつの真っ直ぐな目。自分の剣に誇りを持っている。
「(やるじゃねぇか。)」
『ふぅ…、あ、あのっ、どうでしょうか…。』
「ぜーんぜんなってねぇな!」
『そんなぁ…。』
がっくりとしたその様子に笑いそうになったが、グッと堪えた。
「無駄に体力を使いすぎだ。もっと最小限に止めろ。あとは動きを繊細に。流れるように身をこなせ。剣は…迷いがなくて良かったぜ!」
『!!…ありがとうございます!』
ぱぁっと表情が明るくなる彼女に珍しくドキッとした。なんだ、こいつこんな表情も出来んのかよ。
『あ、あの…、』
「ん?」
『ちっ、近いです!』
無意識に莉亜に近づいていた。莉亜は顔を赤くして一歩下がる。ははーん。なるほど。
『っ、』
「なんで逃げるんだよ莉亜チャン?」
『だ、だって…!』
一歩下がれば一歩前に進む。俺と彼女の距離は縮まることはない。そして彼女はどんどん壁に追い込まれ、ついに逃げ場を無くす。
「なぁ、なんで逃げるんだ?」
そっと耳元で囁けば、莉亜の体はびくりと強張った。顔を見れば耳まで真っ赤。
『男の人…あんまり慣れてなくてっ…それで…っ、』
必死に弁解する莉亜をもっと虐めたい。彼女の恥ずかしがる姿をもっと見たい、そう思った。加虐心が煽られるというのはこういうことか。莉亜の顔の横に手をつき、もう片方の手で莉亜の顔を上げさせた。少しだけ潤んだ瞳に、林檎のように真っ赤になった顔、恥ずかしがるその表情は色っぽく見えて正直欲情した。
「莉亜…。」
『やっ、』
もう抑えらんねぇ…。少しずつ距離が無くなっていく。あともうちょっとで唇が重なる、というところで、誰かに肩をガシリと掴まれた。
「え、」
「センパイ。ダメっすよ弟子に手を出しちゃ。」
「なっ、マスルール!てめっ、なんでここに!」
「なんか嫌な予感がしたんで。そしたら案の定獣が盛ってました。」
「誰が獣だ、誰が。」
ちくしょう、あと少しだったのに。思わず心の中で舌打ちをした。
莉亜から離れ、一定の距離をとった。莉亜は安堵の表情をうかべていて、ちょっとショックだ。でも顔は真っ赤なまま。少しだけ優越感にひたる。
「最低ッス。」
「んだとてめぇ!」
くそっ、生意気な奴め。後頭部をガリガリとかき、ため息を一つ。まぁ焦らなくてもゆっくり男に慣れさせていけばいい。ゆくゆくはシャルルカン様…抱いて…なーんてな。
「この調子じゃ、センパイは論外ッスね。」
「てめぇは一言二言余計なんだよ!」
『あっ、あの…、』
「ん?」
『ご指導ありがとうございました。』
ああ、そうか。こいつはこいつなりに覚悟してるんだ。ちゃんとけじめをつけてる。だからこうやってお礼が言えるんだ。
なら、俺はこいつの覚悟に応えるだけ。一流の剣士にしてやる。だから、ぜってぇ挫けんなよ。莉亜。