また一歩進む
「さぁ、修行の成果を見せてもらおうか。」
『はい!』
魔法、剣術、武術に与えられた時間は三日間ずつ。ヤムライハさん、師匠、そしてマスルールさんに修行をつけてもらい、どれが一番かを王様に見てもらう。
まずは魔法から。
『お願いします!』
「さぁ行くわよ!」
ヤムライハさんは杖を構えた。私もそれに合わせるように杖を構える。この杖はヤムライハさんから頂いたもの。私の宝物だ。
「シャラール・バラク!」
『ハルハール・ソエル!』
ヤムライハさんの水の攻撃を火の攻撃で相殺する。ぶつかりあった水と火は水蒸気を起こした。
「すごいじゃないか!もう魔法を使いこなしている!」
「当然です!この子は物覚えも良くてとても助かりましたから!」
『と、とんでもないです!ヤムライハさんの教え方がうまかったので、使ったことのない魔法が使えるようになったんです…!』
「本当に良い子ね〜!」
むぎゅう、とヤムライハさんに抱き締められる。しかしヤムライハさんの豊満な胸に顔がダイブしているわけで、苦しい。
「よし、次はシャルルカンだな。」
「へーい。おい魔法オタク!莉亜を離せ!」
師匠はヤムライハさんから私を引き剥がした。ったく…と言いながら彼は私の頭を撫でる。
「やるか莉亜!」
『はい!お願いします!』
私と師匠はある一定の距離をとって剣を構える。スゥ、と息を吐き彼を見据えた。師匠が踏み出す瞬間を予測して、私も…、
『(踏み出す…!!)』
私と彼はほぼ同時に踏み出して剣を振った。ぶつかり合う刃によって、火花が散る。彼は私の剣技を認めてくれた。そのままでいいと。だから私はそれを貫くだけ…!
『はぁっ!!』
「おっと!やるじゃねぇか!」
しばらくの間、私達の攻防戦が繰り広げられる。しかし師匠はもちろん手加減をしているため、これも私の修行の一環だ。
「そこまで!」
『ふぅ…、』
「それが莉亜のやっていたケンドーという剣技か?」
『はい。でも、たくさんアドバイスをいただいて、実戦に適している形にしてもらいました。』
そう、剣道だと他の剣技よりも多くの隙を作ってしまう。それを師匠にアドバイスをもらって隙を作らない形にしてもらった。
「見事な打ち合いだった。」
「良かったな莉亜!」
『はいっ、本当にありがとうございますっ!』
「っ、な、なぁ、抱き締めてい「ダメッス。」」
師匠に手を握られたかと思ったら、ぐい、と師匠を手で押しのけて前に出てきたのはマスルールさんだった。
「行くぞ。」
『はいっ!』
最後は武術。私の武術の形の基本は合気道である。「争わない武術」とも呼ばれていて、相手の攻撃を受け流すことが主だ。その中で攻撃を入れていくことをマスルールさんに教わった。相手の攻撃を受け流し、隙を突くこと。それが勝利への鍵だと。
『お願いします。』
マスルールさんとの修行は本当に死ぬかと思った。正直体は痣だらけ。でも力はついたと思う。
マスルールさんは足に力を入れた。その証拠にメリメリと地面が削がれていく。そして私の方へ真っ直ぐに向かってきた。大きな拳が私を襲う。
「莉亜っ!」
王様が私の名前を呼んだ。ガッと嫌な音が城内に鳴り響いたからだ。もちろん私はマスルールさんの拳を防ぎ、攻撃態勢に入る。足をブンっと振り上げるが、片手で止められてしまった。そこからは先程と同じ攻防戦が繰り広げられる。マスルールさんも手加減をしてくれている。しかし、少々痛い。まぁ前の世界と比べたら随分と体は頑丈になったし、脚力も腕力も人並み以上。きっとそう簡単には死なない体のはずだ。
「そこまで!」
王様の声により、私とマスルールさんの動きがぴたりと止まる。お互いにあげていた拳を下げて王様の方へ向き直る。王様はホッとした表情でこちらに訪れた。
「まったく。久しぶりにヒヤヒヤしたぞ。マスルールがいきなり莉亜に殴りかかるからな。本気…じゃないよな?」
「当たり前じゃないですか。修行の時もこんな感じだったッス。」
『マスルールさんが手を抜かなかったら私死んでますから。』
マスルールさんが手を抜かなかったら…と考えるだけでゾッとする。ぺちゃんこになった私が容易に想像出来てしまう。
「んー。これで全て終わったわけだが…三人以外の八人将はどう思う。」
「いやぁおチビちゃんすごいじゃないか!マスルールが手加減してたとは言えあそこまで張り合えるなら大したもんだ!」
「剣技も見事であった。磨かないのは惜しいだろう。」
「私もそう思います。」
「私はもっと魔法が見たいなー!」
ヒナホホさん、ドラコーンさん、スパルトスさん、ピスティさんが口々に違うことを言う。
「ジャーファルはどう思う。」
「私は……、」
ジャーファルさんは少しだけ考える素振りを見せた。ジャーファルさんは私のことなんてどうでもいいのでは…?と考えてしまう。
「全部やったらいいんじゃないですか。」
「何故そう思う。」
「一つを選んで、他二つを手放すには惜しい力量でしょう。ならば1日に一つずつ鍛錬を重ねればいいのでは?」
「だ、そうだが…莉亜はどうしたい?」
『わ、私ですか…?私は…。』
全ての修行をしたけど、どれももっと極めたいと思った。欲張りかもしれない。それでも私は強くなりたい。いつかこの国を出た時のために…!
『私、絶対何かを中途半端にはしません。だから…全てやらせてください…!お願いします!』
私はヤムライハさん、師匠、そしてマスルールさんに頭を下げた。もしかしたら拒絶されるかもしれない。怖い。でも頑張りたいの。
「当たり前でしょ!むしろ私達が貴女に教えたいと思ったのよ?」
「まぁ、いつか剣術が一番って気づくからな!それまで待ってやるぜ。」
「ちょっと!今いい感じにまとまろうとしてたのにほんっとに空気読めないわね!!」
「あぁ?なんか言ったか魔法オタク!!」
「なんですってぇ〜!?」
犬猿の仲…?いや、喧嘩するほど仲がいい…かな?でも本当に良かった。これで私はまた一歩進むことが出来る。
もっともっと頑張るから、もう少し待っててね。お母さん、お父さん。