守りたかったものは

*ジャーファルside*

(※バララークセイの漢字を正しく表記してしまうと表示されない場合があるため"標"としました。)


突然私達の前に現れた、アメジストのような宝石の瞳を持つ少女。その少女の名は莉亜。シンが泉に触れた瞬間に泉から出てくるなんてあまりにも偶然に偶然が重なり過ぎていると思う。きっと何処かの国、もしくは組織の刺客だと思った。しかしそれにしては泣き虫だし、よく笑うし、私を低レベルな言葉で罵った。それに八人将の何人かは心を開き始めている。私が早めに手を打たねば。

そう心に決めたジャーファルは、よく莉亜がいると聞く王宮にある小さな小さな花畑に向かった。

『ふふっ…、そうなの…貴方達は恋人同士なんだね。』

花畑には案の定あの女がいた。誰と話しているのかと思ったら小鳥と話している。あいつの頭の中は花畑か…!!

『恋人かぁ…私には縁が無いなぁ…。』

まぁ、そうだろう。そもそも彼女はそんなことにうつつを抜かしている場合ではない。だいたい他の世界から来た女を誰が娶るんだ。

『私と皆は違うもの…。』

あまりにも悲しげに、あまりにも寂しげにぽそりと呟く彼女は見てて痛々しかった。だが、同情なんてしない。私は騙されない。きっとあの女には何かあるはずだ。

『あ、今日ね、シャルルカンさんが果物をくれたの…!あとね、ヤムライハさんが新しい魔法を教えてくれたんだよ!あとあと、マスルールさんの少し強めの力を受け止めたんだ…!』

今日の修行の時のことを鳥に話しているのか。他に話す奴はいないのか。そう思いながら私は双蛇*<バララークセイ>を構える。問題は早めに摘む。いつもそうだった。王のためなら何だってやってやる。いつも通りやればいい。一歩、また一歩、彼女に近づく。

『あと…ね…ジャーファルさんに…また睨まれちゃった…。』

「…。」

この後に出てくるのは愚痴か。思わずため息を零しそうになったが、グッと堪える。

『仕方ないよね…私も自分が何なのかわからないんだもん…。ジャーファルさんは王様を守りたいだけだから……。』

意外だった。てっきり文句でも出てくると思ったが見当違いだったか。

『でもね…なんでかな…私悲しくてたまらないんだっ…、胸のあたりが痛いのっ…、』

声が震えている。気づいて同情を誘って言っている可能性もある。私は双蛇*を彼女の首に向かって突き刺そうとした。私に気づいていれば防御反応を見せるはずだ。気づけ。気づいてくれ。そう願いながら本気で突き刺すつもりで腕を振り下げた。しかし何の反応も見せないため、もう少しで突き刺さると言うところで止めた。その瞬間彼女の手にとまっていた小鳥が空へと羽ばたいてしまう。

『あっ…行っちゃった…。……やっぱり…一人ぼっち…か…。』

ああ、もうどうしてこの女…いや、莉亜は嫌な女じゃないんだろう。どうして他国の刺客じゃないんだろう。そうでなければ私は莉亜を守らなければと思ってしまうじゃないか。違う、本当はあの泉で見た時から守りたいと思ってしまったんだ。そんな自分を認めたくなくて、莉亜を敵だと思わなければ自分を保っていられなかった。私は誰よりもシンを守らなければならないんだ。でも…莉亜は弱くて弱くてすぐ壊れてしまうから、私達が、私が守りたいんだ。

「莉亜。」

『っ!?!?じ、ジャーファルさん…今の…聞いて…っ?』

「はい。全部聞いていました。」

『ごめ、な、さ…っ、私っ…、』

カタカタと小刻みに震え、大きな瞳に涙を溜める莉亜。今にも零れ落ちてしまいそうだ。

「私はずっとシンを守ってきたつもりです。今もこれから先もそれは変わりません。」

『っ、はい。』

「貴女は信用出来ません。それもこれから先は変わらないでしょう。」

『はい…っ、』

ついに彼女の瞳からポロ…と涙が零れ落ちた。シンならこの涙を拭うことが出来るのだろう。でも私には出来ない。だけど…、

「これから、お茶を飲むんです。」

『えっ、あっ、はい…。良いと思います…?』

「口に合うかわかりませんが……その…良ければ一緒にどうですか?」

『!?!?』

「別に嫌ならいいですけど。」

『のっのっ飲みます!飲みたいです!ちょうどお茶が飲みたいと思ってしました!』

「ふ、なんですかそれは。さぁ、行きますよ。」

『!…はいっ!』

泣かせたいわけじゃないんだ。少しだけ距離を縮めるくらい良いでしょう。この笑顔を近くで見たくなってしまったのだから。