初めての景色

金属器とはジンの宿った道具のこと。 迷宮攻略で得られる魔法道具のうち、もっとも最高峰のものとされ、ジンに選ばれた攻略者一人のみが得ることができる。 使用者の魔力を糧にジンの力を引き出して使う事が出来るようになり、その所有者をジンの金属器使いと呼ぶ。

また、金属器使いの側にいる者をジンが認めると、その力を分け与え眷属を生む場合もある。 金属器、眷属器ともに持ち主の一部となるほど身に馴染んだ金属が望ましい。

極大魔法と呼ばれる、防御不可の超強力な攻撃魔法をひとつ使う事が出来る。 魔力の増幅装置のような機能を持ち、同時に自然現象を取り込むことで、通常よりはるかに小さな魔力での使用が可能。

闇の金属器に対し、「ソロモンの金属器」とも呼ばれる。




『金属器…?カナンさんカナンさん。』

「いかがなさいましたか?」

『金属器…のことがここに書いてあるんですけど、それって現実にあるものなんですか?』

「はい。もちろん現実にございます。」

『それってすごい武器なんですか?』

「もちろんです。金属器は迷宮を攻略した方だけが手に入れることの出来るジンを宿した武器ですもの。」

『迷宮…。私にも出来ますか?』

「金属器は魔導士との相性が悪いと聞いたことがありますゆえ、判断しかねます。」

『そうですか…。』

金属器の力を手に入れられたら、何か変わるかと思ったけれど、魔導士と相性が悪いなら仕方ないか…。




「どうした莉亜。浮かない顔をしているな。」

『王様…こんにちは。いや、えっと…、』

「遠慮せずに話してみなさい。」

カナンさんと金属器の話をしたことを王様に全て話した。するとその話を聞いた王様が笑った。

『なっなんで笑うんですかぁ!』

「いやぁすまんすまん。莉亜は金属器が見てみたいかい?」

『んー、見てみたいですけど…すごいものらしいので私に見る機会があるかどうか…。』

「ははっ、そんなことはないぞ。それに君はもうすでに金属器を見ている。それも七つもな。」

『ええっ!?七つも!?そんな機会何処に…。』

「あるじゃないか。目の前に。」

『目の前……?え、ま、まさか…王様…。』

「そう、俺は七つの迷宮攻略者、そしてジンの金属器使いだ。」

『えええっ!?やっぱり王様ってすごい…。』

「ははは、そうだろうそうだろう。莉亜には特別に全身魔装を見せてあげよう。」

『全身魔装…?』

「そう。ジンの力を借りて、全身に纏うんだ。見てみたいか?」

『でも…、私がもし敵だとしたら…手の内は見せない方が…、』

私はまだシンドリアの敵じゃないと決まったわけではない。もちろんじぶんの意思で敵になりたいだなんて思わないけど、万が一のことだってある。怖いんだ、騙したのかって言われるのが。

「本当に君は優しい子だ。大丈夫、莉亜を信じているからな。」

『っ、王様…っ、』

王様の言葉にまた泣きそうになってしまう。この人は私を泣かせる天才みたいだ。

「さぁ、少し離れていなさい。危ないからな。」

『はい。』

私は数歩王様から離れた。王様は剣を引き抜き、目の前に構える。

「憤怒と英傑の精霊よ。汝に命ず。我が身に纏え我が身に宿れ。我が身を大いなる魔神と化せ…バアル!!!」

目の前で何が起こっているのかわからなかった。王様は龍の衣のような鎧を身に纏い、何とも煌びやかな姿になった。口をぽかんと開けて呆然としている莉亜に王様はふ、と笑う。そして莉亜に近づき、彼女を横抱きにした。

『きゃっ、お、王様!?』

「行くぞ!」

『っきゃああああああ!』

シンドバッドは莉亜を抱いたまま空へと高く舞い上がった。莉亜はあまりの恐怖に一心不乱にシンドバッドにしがみつく。

『っ、』

怖すぎて声が出ない。王様下ろしてくださいいいい。早く終われと思いながら下を見ないように目を固く閉じた。

「莉亜!下を見てみろ!」

『無理ですぅ〜っ!』

「大丈夫だ!俺がちゃんと抱いててやるから!」

ぽんぽんと私の背中を撫でてくれる王様。私は勇気を振り絞って、目を開けて後ろを振り返り下を向いた。

『!!』

「これがシンドリア王国だ!!」

美しい紺碧の海に囲まれた島。賑わう市場にここからでも確認出来るこの国の人達の笑顔。島国と言うことは同じなのに、全然違う。あまりにも美しいこの世界に、いつの間にか莉亜の頬には涙が溢れていた。

「莉亜…?何故泣いているんだ?怖かったか?」

『違うんです…っ、この国があまりにも美しくてっ…ここからでもハッキリ見てわかるんです、この国の人達の笑顔が…っ、』

何かを心の底から美しいと思ったのは初めてだった。だからこそ、本当にここは私がいた世界ではないことがわかった。

「俺は…、」

『王様………?』

「っ、何でもないよ。さぁ、下りるか。そろそろ民衆もこちらを注目しているしな。きっとジャーファルも怒っているだろう。」

『は、はい…。』

一瞬、ほんの一瞬だけ、王様の瞳が揺れた。もしかして失礼なことをしてしまっただろうか。ちらりと王様の顔を見るが、王様はにこりと笑ったので深く考えないことにした。

シンドバッドは莉亜を抱えたまま地上へと下りた。ホッとしたのも束の間、二人を待っていたのは鬼の形相をした政務官だった。

「貴方達は何をしているんですか?」

「や、やぁジャーファル。たまには気分転換に空を散歩しようと思ってな!なぁ莉亜!」

『はっはい!いいお天気ですよね!』

「そうですね、今日は散歩をしたくなるほど晴れていますね………とでも言うと思いましたか?」

にこっと笑うジャーファルさんだが、目が笑っていない。これは相当お怒りのようだ。

「ジャーファル、話せばわかる。落ち着くんだ。」

「これが落ち着いていられますか!!国民達に見られたではありませんか!まだ彼女の存在は内密だったでしょう!!」

「いいんだジャーファル。もう彼女のことは公にしようと思ってたところだった。」

「どうやって公にするつもりですか?」

えっえっ私ひっそり生きてひっそり出て行く予定だったんですけど、とは言えなかった。さすがにずっと秘密と言うのは不可能なのだろう。先程も私の姿を見られたわけだし。しかもこんなに目立つ容姿をしている。いずれはバレるのだろう。

「そろそろだろう!あれが!」

「あれ…?ああ!あれですね!」

『あれ…?ってなんですか?』

首をこてんと倒した莉亜。その仕草に内心悶えた二人はポーカーフェイスを保った。



「謝肉宴<マハラガーン>だ!」