力の意味

もし今願いが叶うなら…、

『露出が少ない服を着せさせてくださいいいい!!』

「とても似合っておりますよ。」

『違うんですよカナンさん!似合うとか似合わないとかじゃないんです!』

体を覆うように布を被る莉亜。隙間から見える莉亜の顔は半泣き状態だ。

『どうしてこんな格好しなきゃならないんですか〜っ!』

「王様からのご命令です。」

『おっ王様の趣味ですかこれ!』

「………。」

『にっこり笑うのやめてください!?』

もうこんな格好じゃはしたなくてお嫁にいけない。外を出歩くなんて論外だわ。何故王様は私にこんな格好をさせるの?

「さぁ、行きましょう莉亜様。」

『無理ですううう!!』

「それでは最終手段を使わせていただきます。…マスルール様、お願いいたします。」

カナンさんはまんざらでもない顔で、部屋のドアを開けた。ドアからはマスルールさんが中へと入ってくる。

「行くぞ。」

『まっ、えっ、なっ、』

「王様のとこ。」

『無理です無理です無理です!こんな格好じゃなくていつも貸していただいてる服でお目通りしたいです!』

「諦めろ。」

『っきゃ、』


マスルールは莉亜を横抱きにし、部屋を出た。ズンズンと進むマスルールの後ろををカナンはついていく。莉亜はジタバタと抵抗するが、もちろんマスルールに何の影響力も無かった。あっという間にシンドバッドの元へたどり着き、莉亜の顔はサァ…と青ざめた。

「連れてきたッス。」

「ご苦労マスルール。って莉亜、マスルールの後ろに隠れるんじゃない。」

『違います。私は莉亜じゃありません。人違いです。』

「何を言っているんだ。マスルール。」

「ハイ。」

『あわわぁっ…勘弁してくださいいい!』

マスルールさんは血も涙も無いのか私を王様の前に差し出した。八人将と王様の目線が痛いくらいに刺さった。

『似合ってないなら似合ってないって言ってくださいっ!黙ってる方が傷つきます…!』

「っ、よ、よく似合っているよ!なぁ、ジャーファル!」

「なっ何故私に言うんですか!…こほん、よくお似合いですよ。」

しどろもどろに莉亜を褒めるシンドバッドとジャーファルの様子を見た莉亜は相当見苦しいものなのだと勘違いをして落ち込んだ。似合っていないとわかっているが、他人に言われるとさすがにきついものはある。

『い、いいですよ皆さん。気を遣わないでください……。』

「か、」

『か…?』

「可愛いいいいいいいいい!」

『むぎゅっ!』

ヤムライハさんはゆらりと私の目の前に来たと思ったら突然抱き締めてきた。何度目かの豊満な胸にダイブだ。

「さすが私の妹だわ!何を着ても可愛い!」

「えーっ、いつからヤムの妹になったのー?」

「出会った時からよピスティ!」

「いいなぁ!私も莉亜のお姉ちゃんになりたぁい!」

女子特有のキャピキャピとした空気がその場に流れた。一方男性陣は莉亜の美しさに開いた口が塞がらない。ドラコーンとヒナホホは既婚者ではあるが、美しい莉亜をつい凝視してしまうのは男の性だった。そしてスパルトスとシャルルカンは見たいのに見ることが出来なかった。女性に慣れてないスパルトスにはあまりにも女性らしい莉亜を見ることが出来ず、シャルルカンは莉亜のおへそが出ているため見ることが出来ない。ジャーファルは魅入ってしまった自分に心の中で喝を入れるが、いつもと違う莉亜に目が離せなくなっている。シンドバッドは今まで多くの美しい女性を見てきたが、莉亜以上に美しい女の子を見たことはなかった。幼くも、ここまで美しいと今までに会った女性がかすんでしまう。

『そもそもこれ何の服なんですか?』

「これは踊り子の服なのよ。」

『待ってください!!私踊りなんて踊れません!!!』

どうりで華美な服なわけだ。いや、そんなことはどうでもいいの。私、踊りはダメなんです。そもそもあまりすることがないからよくわかってない分野なんです。

「もちろん踊って欲しいわけではないさ!どうせならこのくらい目立つ格好ではないと印象が薄くなってしまうだろう?こんなに美しいんだ、皆に見てほしいじゃないか。」

『お、王様?さっきから一体何の話を…?』

王様の言うことがよくわからなかった。踊るのではないなら私は何をすればいいのだろうか。うーん、と考えていると、地面が揺れるのを感じた。

「南海生物が出たぞー!!」

「来たか!行くぞ皆の衆!」

「「「仰せのままに。」」」

「莉亜も行くぞ!」

『えっはい!』

全く状況を把握出来ないまま、私は王様達と共に外へ出た。そして、外には私の中の常識を覆すものがシンドリアを暴れまわっていた。

『何っ…あれ…っ!?』

そう、シンドリアで暴れまわっていたのは青色の龍のような化け物だった。それはあまりにも大きくて、凶暴で、私を恐怖でいっぱいにするには十分だった。怖い、怖い、逃げなきゃ。

「あれは南海生物だ。年に数回現れるんだよ。」

『そんな平然とっ…あんな怪物…っ、』

「莉亜の世界にはいなかったか?」

王様の質問にぶんぶんと首を縦にふった。あんなものが海から現れたらパニック状態だ。現に私は今、軽くパニックを起こしているのだから。

「莉亜、君にあの南海生物を倒してほしいんだ。」

『何言って…そんなの無理です!』

「いいや、君になら出来る。」

私をまっすぐ見据える王様の瞳は本気だった。私があの怪物と戦う?絶対無理だ。出来ない。怖くて足が震えているもの。どうして私なの?私より強い人はいっぱいいるのに。

『…っ、やっぱり無理ですっ…出来ません…っ!』

「甘えるな!!」

『っ、』

「…無理?出来ない?それは君が決めた限界だろう!死ぬのが怖いか?そんなの皆そうだ!!何の力も持たない民衆をみてみろ!君には力があるのにどうしてそれを使おうとしないんだ!!」

王様の言葉の矢が私の心をどすどすと射抜いていく。ああ、そうか。私は心の何処かで甘えてたんだ。この人達が私を守ってくれるって。でも間違ってた。ここは私の世界じゃない。自分の身は自分で守らないといけないんだ。しっかりしなくては。

『ごめん…なさい…。』

私を守ってくれる人は、私を守ってくれる世界はもうない。

莉亜は自分で自分の頬をバチーン!と叩いた。その行動に王様すら驚いた。

『私に…私にやらせてください…!』

「!…ああ、怪我はするなよ!」

『仰せのままに…!』

そこからはあまり覚えていない。覚えているのは倒れていく南海生物と、民衆の歓声と、遠ざかっていく空、そして王様の心配そうな顔だった。そして、何故か私はいつの間にかベッドの中にいた。

『(私…どうしたんだっけ…、)』

「莉亜!」

『王…様……?』

「良かった…良かった…っ、」

『わた…し…は、』

「ちゃんと南海生物を倒した。よくやったな。」

左手がずっと温かかった。王様が手を握っていてくれたのか。とても温かさを感じている。今の私にはそれが何よりも嬉しかった。

「もう謝肉宴は始まっている。莉亜の倒した南海生物で宴だよ。」

『そうですか…、王様はずっと傍にいてくださったのですね…。ごめんなさい…。私はもう大丈夫です。』

「何を言っている。莉亜も行くんだよ。」

『えっえっ…きゃあっ…!?』

ひょいっと莉亜を横抱きにするシンドバッドは、謝肉宴へと向かった。謝肉宴は盛り上がりを見せており、身分関係なく皆楽しんでいた。しかし、シンドバッドが訪れたため、先ほどまで酔い、笑っていた者すら背筋を伸ばし、頭を下げる。

「頭を上げてくれ。莉亜、立てるか?」

『はい。ありがとうございます。』

一斉に視線を集めた莉亜は思わず俯いてしまう。そんな莉亜の背中をシンドバッドは押して、声が皆に届くよう叫んだ。

「今日、皆が口にしている南海生物を倒したのは、私のそばにいるこの少女、莉亜だ!!莉亜はわけあってこのシンドリア王国に滞在している!!しかし、シンドリアにいるということは皆の家族同様!受け入れてくれるだろうか!!」

シン…と静まり返ったその場を逃げたくなった。受け入れてくれるわけない。こんなにおかしな容姿してるし、人間離れした力を持ってるし、皆は知らないけど他の世界から来た人間だ。気味が悪いと言われても仕方ないのだ。奥歯を噛み締めて、込み上げてくるものを必死に抑えた。しかしその直後、民衆や兵士、大勢の人達から歓声があがる。

「もちろんです王様!」

「莉亜様!今日は南海生物を倒していただきありがとうございます!」

「とてもお美しい…。」

「まるでアメジストのような瞳だ…!」

「どこかの国のお姫様か?」

「きっとそうに違いない!」

次々とあがる褒め言葉に驚いた。なんて優しい国民達なのだろうか。こんな私を受け入れてくれるだなんて。

「君は正式に国民から受け入れられた食客だよ莉亜。もう堂々とシンドリアを歩いてもらって構わない。君は家族なんだから。」

『っはい…!…ここは本当に温かい国ですね…。』

「俺の自慢の国だからな!」

そう言って、夜空を背中に、太陽のように笑う王様は誰よりも眩しかった。