想いの強さ
違う、私は運命に逆らいたいわけじゃないの。ただ乗り越えたくて、負けたくなくて、恨んでなんか…っ、
「そこまでだジュダル。」
「ちっ、いいとこで来やがって。」
空に八芒星が浮かび、そこから王様が出てきた。そういえばヤムさんの結界は転送魔法陣と言っていた。転送魔法陣から出てきた王様は魔装をしていて、戦闘態勢に入っている。
「ここは海の上、俺も心置きなく戦える。」
「全力のお前と戦えるなんて最高じゃねぇか!…と言いたいところだけど、今日は気分じゃねぇから。」
「ほぅ…ここまで好き放題してその言い草か。ふざけるのも大概にしろ。」
「そんな怒るなよシンドバッド!こいつは返すからよ!」
『え…、』
トン、と肩を押される。私の体は重力に逆らうことなく海へと真っ逆さま。ダメ、杖がないから魔法が使えない。せめて浮遊魔法さえ使えれば…っ、と思っているうちに、ジュダルさんは杖を一振りした。
「氷の槍<サルグ・アルサーロス>。」
複数の氷の刃が莉亜に向かって落ちてくる。莉亜には杖がないため、魔法が使えない。よって、シンドバッドが庇おうとするが間に合わない。
「莉亜!!」
『っ、炎熱の槍<ハルハール・アルサーロス>!!』
本来なら魔導士は杖を媒介にして魔法を使う。しかし莉亜は杖を持っていないにも関わらず魔法を使った。それはさすがのジュダルも驚いたのだった。ジュダルの氷の槍を莉亜の炎熱の槍で、ある程度は相殺したが、魔力の差があり全てを相殺することは出来なかった。わずかに残った氷の槍が莉亜に襲いかかり、莉亜は海へと落ちてしまう。
「雷光剣<バララークサイカ>!」
シンドバッドはジュダルに攻撃をするが、焦りゆえか、あまり威力がない。このままジュダルの相手をしていれば莉亜は溺れて死んでしまう。そう考えたシンドバッドは魔装を解いて海へと飛び込んだ。
『(痛い…なぁ…、)』
私はこのまま死んでしまうのだろうか。嫌だなぁ、まだ王様に恩返しをしてないのに。まだまだやることがたくさんあるのに。死にたくないよ。
薄れていく意識の中、誰かが海の中へ入ってきた。なんだろうかこのデジャヴは。私は知っている。そうだ、初めて王様に会った時もこうして手を伸ばしてもらったんだ。泉から救ってくれたのは王様だったんだもの。
「(莉亜!)」
シンドバッドは泉で莉亜を救った時のように、莉亜を自分の方へ引き寄せ、唇を重ねた。スゥ、と空気を送る。その行動に莉亜は目を見開いた。飛んでいきそうな意識もはっきりとしている。
飲み込んでしまった水を吐き出し、シンドバッドと共に海上へとあがる。
「『ぷはっ!』」
『けほっ…けほっ…!』
「莉亜!大丈夫か!」
ホッとしたのも束の間。空では複数の氷の槍を構えて待っていたジュダルがいた。ニタァ…と笑いそのままシンドバッドと莉亜に向けて降り注がれる。
『王様っ!!』
莉亜はぎゅっとシンドバッドを胸に抱き締める。その行動にシンドバッドは驚く。そんなシンドバッドなんて御構い無しで、莉亜は彼を守ろうとした。
守りたい。私を救ってくれたこの人を。私は弱いから、守れる力が欲しい。強くなりたい。王様を守れるように。
『(力が欲しい…!!)』
そう強く願った瞬間、莉亜の右目が金色に光り、その瞳には八芒星が浮かんでいた。その光は降り注ぐ氷の槍を溶かした。莉亜自身何が起こっているのかわからなかったが、温かく、ぽかぽかとした気持ちになっていた。そしてジュダルの周りに飛んでいた黒いルフがわずかに白く染まっていく。
「ぐっ、あああぁああぁあああぁ!!」
頭を抱えて苦しみ始めたジュダル。浮遊魔法を使って空を飛んでいた彼は莉亜から放たれた光を浴びて海へと落ちていった。が、それを助けたのは仮面を被った男。
その男を最後に、莉亜は気を失ってしまった。自分を守ってくれた莉亜をシンドバッドはしっかりと抱きかかえる。彼は、莉亜がどうやって自分を守ってくれたのかはわからなかったが、とても温かく優しい光に包まれたことはしっかりとわかった。
「まさかとは思って来てみれば、素晴らしい収穫が出来た。」
「お前達の目的はなんだ!!」
「全ては我らが父のために…。不完全ではあるが、そこの女はシンドバッド王の手には余る存在。必ずこちら側へと誘おう。」
「っ、待て!!」
仮面の男はジュダルを抱えたまま、消え去ってしまった。追いかけたい衝動に駆られたが今は莉亜を助けることが何より優先順位が上だった。
「王様っ!!」
「ヤムライハ!彼女を王宮へ!!ただちに治療をしなければ!!」
自分の手の中で冷たくなっている莉亜を抱き締めるシンドバッド。どうか無事でいてくれと強く願った。