動き出す影

『また風紀委員か…、』

あまりにも酷い知らせに頭を抱えた。日曜日にも関わらず校内にいるのは理由があった。応接室に来る知らせは風紀委員が襲撃されているというものだった。もう7人目になる。そのことについて委員長に呼び出しをくらい、学校に来たが無情過ぎる。この調子でいくと私だって狙われる可能性があるということをわかって呼んでいるのか。

『なんで風紀委員ばっかりなの…?それに襲撃された人は皆歯を抜かれている。』

カタカタとキーボードの音が鳴り響く応接室。被害にあった人達のデータを纏めて印刷をする。被害にあっているのは風紀委員の中でも強者ばかりだった。風紀委員に恨みがある人の仕業なのだろうか。考えれば考えるほど分からなかった。頭を抱えていると応接室のドアがガラリと開く。思わずびくりと体が反応してしまった。

「データまとめられたの?」

『はい、これです。被害者は全員歯を抜かれています。しかし人によって抜かれた歯の本数はバラバラ。被害にあった時間で並べると、抜かれる歯は一本ずつ減っています。』

「…上出来だね。」

委員長にぽん、と頭を撫でられた。委員長の信じられない行動に鳥肌が立つ。

『な、え、急にどうしたんですか。冷静になってくださいよ。』

「僕はいつでも冷静だけど。」

『冷静な委員長は頭ぽんってしませんよ!怖いんでやめてください!』

「そう、じゃあ君にはこれくらいがいいかな。」

『いだだだだだ!!ごめんなさい!』

私の頭を撫でたその手は、ものすごい力で私の頭を鷲掴みにした。あまりの痛さに簡単に謝罪の言葉が口から飛び出した。

「現時点でこれだけ分かっていれば自ずと襲撃犯は絞られてくる。」

『被害増えないといいですね。』

「強ければいいんだよ。」

『良かった、いつもの暴論絶好調ですね。…冗談です。』

ギロリと睨む視線から目を逸らし、パソコンの電源を切った。さぁ、私の出来ることもここまでなのでそろそろ帰ってもいいだろうか。

「帰っていいよ。帰り道は草壁を連れて行くといい。」

『え、いいですよ別に。』

「雑用まで居なくなったら業務が滞るからね。」

『心配を装うことすら出来ませんかね!?』

「君は殺しても死にそうにないから。」

『私を何だと思ってるんです!?』

と言うものの、委員長は委員長なりに心配してくれているんだと思う。風紀委員の体制が手薄になってる中、こうして草壁君をそばに置いてくれるのだから。不器用な優しさに感謝し、素直に草壁君に送ってもらうことにしよう。

『委員長も気をつけてくださいね。』

「誰に言ってるの?君こそ怪我なんてしたら咬み殺すよ。」

『承知ですー。失礼します。』

応接室から出ると草壁君が外で待っていてくれた。ごめんね、と手を合わせると大丈夫だ、と笑ってくれた。強面だから誤解されがちだけど、彼はとても優しいのだ。

草壁君には結局家の前まで送ってもらい、彼の背中を見送った。正直、気分が重かった。身内が傷ついているのだ、ヘラヘラ笑っていられない。かと言ってどうすることもできない。でも、心の何処かで委員長がどうにかしてくれると期待している。いつもは怖いけれど、こういう時は頼りになる。どうか、これ以上被害者が増えませんように。私は祈ることしか出来なかった。

神様はそんな祈りさえ聞き届けてはくれなかったけれど。