ガムと取引

学校は騒然としていた。当たり前だ。もう何人もの並中生が襲撃に遭い、対応に追われていた。私は朝早くから登校し、被害者のデータをまとめていた。今までは風紀委員だったが、今度は風紀委員以外の生徒も被害に遭っていた。まさか風紀委員以外で被害が出るなんて思わなかった。昨晩は多くの生徒が無差別襲撃に遭っている。データをまとめて委員長に送る。委員長は今どこにいるんだ。私は学校でこんな必死にデータをまとめてるというのに!!

3年間過ごしてきてこんな事件は初めてだったものだから私も冷静ではいられなかった。情けないけど、こんな時に委員長にそばにいてほしい。なんて自分勝手なんだろう。

『こんな時は委員長の携帯に入れたGPS機能使ってやるんだから!』

委員長はいつもフラフラしていて捕まらない時が多いので、いざという時の為に彼の携帯にGPS機能を付けておいた。これなら今委員長がどこにいるかわかるし、学校に引っ張っていける。私は携帯を操作し、委員長の居場所を特定する。

『どこほっつき歩いてるんですか委員長!絶対連れ戻してやりますからね!』

委員長がどこに向かっているかは分からなかったけど、とにかく私も動くしかない。私は携帯だけ手に持ち、委員長の元へと向かった。それが大変なことに繋がるとは知らずに。


***


『ここって…、黒曜センター…?』

委員長を追いかけて辿り着いた場所は黒曜ランドだった。確かここは複合娯楽施設で、改築計画の話もあったが、一昨年に台風の影響で土砂崩れが起こりそのまま閉鎖してしまった場所。何故こんなところに委員長が…、と一瞬考えたけど冷静になって考えればわかった。きっとここは襲撃犯が潜在しているところなのではないだろうか。委員長は襲撃犯の尻尾を掴んでたんだ。何故私はこんなところまで来てしまったんだと今から後悔してももう遅い。こんなところまで来てしまったのだ。とにかく委員長と合流しなければ。私はさらに足を進め、奥へと行った。奥に行けば行くほど、人が倒れていて、委員長がやったのかなと判断した。

「んあ?なんら人の気配がすると思ったら女かよ。」

『ひっ、』

建物に入ろうとすると、建物の陰から男子生徒が現れた。見たところ並中の制服ではない。あれは黒曜中の制服だ。気怠そうにこちらへ近づいてくる。

「なんらお前、どこから入ったびょん。」

『ちゃんと入り口から入りました。』

「そんなこと聞いてねーし。」

『聞いたじゃん!!』

「う、うるへー!なんらお前生意気だな!殺すぞ!」

なんだこの低レベルな会話は。自分でしておいて少し笑ってしまいそうになった。いや、今は笑っている場合ではない。私の足では彼から逃げられそうにはないし、かと言って殴り合いも勿論出来ない。頭を使うんだ。

『これ、なんだかわかりますか。』

「なんらそれ。」

『なんと果汁90%入りのプレミアガムです。』

「!!」

スカートのポケットに入れていたガムを彼に見せる。そのガムを見ると彼の目の色は変わった。

『これと引き換えに、私と同じ腕章を持った人のところに案内してほしいんです。どうですか?』

「やら。お前をぶっ倒して奪えばいいし。」

『いいんですかそんなことして。これの一番美味しい食べ方…知りたくないですか?』

「てめー…。」

もう自分でも何を言っているのかよくわからなくなってきた。このガムの一番美味しい食べ方なんて知らない。噛みしめるのが一番美味しいだろう。しかし今はどんなやり方でもいいから一番安全に委員長に辿り着かなければならない。この策に彼がのってくれるのか。

「連れてってやるから寄越せよ。んで、一番美味しい食い方教えろ。」

寄越せと言って手を出す黒曜生。こんなやり方でも通用するのかと喜びそうになった。私は素早く彼の手にガムを乗せた。

「どーやって食べんのが一番うまいんだびょん。」

私は彼に適当なガムの食べ方を教えつつ委員長の元へと向かった。委員長、待っててくださいね。