オッドアイ

「あ、またのんらった。おい花莉、もう一個寄越せ。」

『また!?何回飲み込むの!?喉に詰まるから気をつけようよ!』

私は黒曜中の生徒、城島犬にガムを渡す代わりに委員長の元へ案内してもらっていた。一個のガムで事足りると思っていたが、この男はガムを飲み込んでもう3回目で、すでに4個目のプレミアガムを渡すところだった。何故中学生にもなってガムを飲み込むんだ、と怒りたくなったがグッと堪えてガムを手渡した。

「さんきゅー。…んあ?ちょーど着いたな。」

『え、ここ?』

「骸さーん。女拾いましたー。」

「クフフ…賑やかな声がここまで聞こえてきましたよ。ガールフレンドですか?」

「ちっ、違いますびょん!」

城島君の背中で誰と話しているのかはよくわからない。彼の背中から声の主を確認しようと顔を少しずらした。すると、私の視界に入ってきたのは信じられない光景だった。

『い、いん、ちょう…?』

床には血だらけの人が倒れてる。それは私がよく知った人だった。何故委員長が血だらけで倒れてるの。返り血なんかじゃない。あれは委員長が怪我をして、流れた血だ。私はすぐに委員長の傍に駆け寄った。

『委員長っ!』

「……何、学校サボってるの、」

『委員長に言われたくありません!探したんですから…っ!』

良かった、気を失っているかと思ったけど意識はある。こうやって話せる元気があることに安心する。でも、こんなこと誰が、

「おや、貴方のガールフレンドでしたか。」

声のする方を見ると、オッドアイの瞳とバチリと視線が交差する。私は、この目を知っている。この異様な既視感を何なのだろうか。

「貴女は…、」

オッドアイの彼も黒曜中の制服を身につけている。彼は私を見るなり少し目を見開き、一瞬驚く様子を見せた。

「関係ない。これは関係ないよ。」

『か、関係ない!?酷いです委員長!いつもパワハラに堪えながら委員長の後始末を頑張ってきたのに!』

「馬鹿なの君…。」

「クフフ…、可愛らしいお嬢さんですね。雲雀恭弥は今僕に負けたところですよ。」

『!!…そ、そうですか。ついに委員長の高い鼻がぽっきり折れ…冗談です。』

「負けてない。」

ぐっと起き上がろうとする委員長は見ていて痛々しかった。もう立たないでほしかった。こんな状況なんだからもう負けていいし、逃げましょうって言いたい。でも、それは委員長のプライドが許さない。私にはどうすることもできないんだ。

「おや、まだ立ち上がりますか。ならもう一度見せましょうか?桜をね。」

オッドアイの彼はパチンと指を鳴らす。すると頭上には満開の桜が現れた。ひらひらと花びらが舞い、幻想的な空間が生まれた。

『あの人…手品師か何かですか?』

「ほんと、黙ってくれる?」

再び膝をつく委員長を慌てて支えた。桜が何故突然現れたかなんてどうでもいい。そんなことよりも何故彼は委員長が桜を苦手なことを知っているのかだ。委員長がサクラクラ病になったのは、以前のお花見にいたメンバーしか知らないはずなのに。そんなことを考えているとオッドアイの彼に委員長が蹴り飛ばされてしまう。

『委員長っ!!』

「話になりませんね。犬、彼を閉じ込めておいてください。」

「わかりましたびょん!」

『っ委員長!』

「貴女は僕の暇つぶしにでもなってもらいましょうか。」

『…っ、』

委員長に手を伸ばそうとすると、その手は望まない手によって絡みとられてしまう。無理矢理腰を抱かれ、不快感が全身を襲った。このままじゃ委員長と引き離されてしまう。

「ぼく、の、ものに、触る、な…、」

「取られる方が悪いんですよ。」

『い、嫌ですっ、閉じ込めるなら私も一緒に…っ!』

勿論、こんなに嘆願しても聞き届けてくれるわけはなかった。私はどうなってしまうのだろうか、そんなことを思いながら遠くなる彼を呼んだ。

「ああ、そうだ。壊れてしまったらすみません。」

委員長に吐いた氷のように冷たい言葉が、私の頭の中で木霊した。