囚われる
「そうですね、まずは自己紹介でもしましょうか。」
城島君と委員長はこの場から居なくなってしまい、オッドアイの彼と二人きりという危機的な状況になってしまった。彼はソファに腰を掛け、足を組む。
「僕は六道骸。骸でいいですよ。」
『星影…花莉です…。』
「花莉ですか。いい名だ。巻き込まれて災難でしたね。貴女の委員長はもう助けてはくれないでしょう。」
どの口が言うんだ。そもそも骸さんがこんな事件起こさなければ私や委員長はこんなところに来なかったのに。
『なにか、恨みでもあるんですか。』
「いいえ、ですが探し物があるんです。こうでもしないと見つからないんですよ。」
絶句した。探し物のためにここまでするのかと。この事件で多くの人達が傷ついた。被害者、被害者の家族、友人。それをわかっているのにどうしてそんな顔で笑っていられるの。
『私がここにいても探し物は見つからないと思います。』
「ええ、そうでしょうね。ですが、貴女については少し気になることがあるんですよ。その、目についてね。」
『!!』
何故、よりによって"目"なのだろうか。この人も委員長と同じでわかっている。でも、この人がそれを気になる理由がわからない。
「それ、外してくれますか?」
『何故ですか…。』
「貴女に、はい以外の返事は求めていません。」
ずっしりとくる威圧感に冷や汗が止まらない。彼は私が余計なことをすればいつでも再起不能に出来るだろう。それをまだしないのは愉しんでいるからなのか、それとも他の目的があるのか。とにかくここで逆らってはいけないと感じた。震える手でカラコンを外そうとするが、震えすぎてうまく外れない。
「僕が手伝いましょうか?」
『結構です。眼球まで持っていかれそうなので。』
「それは残念。」
震える手に力を込めながら私はコンタクトを外した。コンタクトケースを持ってきていないため、もうこれはゴミ箱行きだ。両目のコンタクトを外し、骸さんを見た。裸眼で誰かと目を合わせるのは久しぶりで、いい気分ではなかった。この色が大嫌いだから。
「やはり…貴女はあの時の…、」
骸さんは突然立ち上がり、私に向かって歩いてくる。なんだか恐ろしくなって私は一歩だけ後ずさった。そんな行為は意味をなさず、すぐに腕を掴まれてしまう。
「見つけましたよ。」
『なっ、何がですか…!?』
「夢で会ったでしょう。僕と。覚えていませんか?」
『っわかりません…!』
いや、嘘だ。確かにはっきりとは覚えていない。だけど、彼に既視感があったのはきっと、彼が言った通りだからだ。しかし夢で会うなんて普通なら考えられないことだ。
「ならば、これで思い出せませんか。」
そう言った瞬間、景色がガラリと変わり視界いっぱいに星空が広がる。足元には草原が広がり、ありえない現象に腰が抜けてしまった。
『な、なんで、』
「貴女は僕の手を掴んでくれましたね。この星空の世界は貴女の夢だった。貴女が自ら、僕を連れてきたんですよ。」
そうだ、はっきりと思い出した。寂しげに佇む少年が暗闇に沈みそうになっていた。私はその少年の手を掴んで抱きしめたんだ。まさかその少年、いや青年が実在する人だったなんて。
「言ったでしょう。必ず見つけてみせると。」
『…、』
「普通なら夢を渡ることなんて出来ない。ましてや自分の夢に連れて行くことが一般人にできるわけがないんです。貴女は何者ですか?」
『わ、わからないですよ…。夢を渡ったって言われても、自分でどうやったのかわかりませんっ、色んなことが起こっていて私にも何が何だか…っ、』
先程から現実味のないことが起こりすぎて私もいっぱいいっぱいになっていた。正直怖いし早く委員長を連れて帰ってしまいたい。それを許されず、訳の分からないことを言われてもうどうしていいかわからない。
じわりじわりと目頭が熱くなっていくのを感じた。するとそれに気づいた骸さんは私の前でしゃがみこみ、頬に手を滑らせた。
「すみません、貴女を困らせたいわけではないんです。あの夢を見て、必ず貴女を見つけると誓いました。笑ってしまうでしょう。あの一度きりの出会いで貴女に会いたいと強く願った。まさかこんなところで会えるとは思いませんでしたが。」
『私は…っ、』
「僕の傍にいてください。」
ダメだ、この目を見ると引き込まれてしまいそうになる。私は彼の胸板を押し、目を逸らした。騙されてはいけない、彼は並中生を傷つけた主犯なのだから。
『ダメ、です。っ並中の生徒を傷つけた貴方を風紀委員として許すわけにはいきません…!』
「クフフ…、そうですか。」
こんなかっこいいこと言ってみたけど正直後悔している。殴られるのかな、蹴られるのかな。仮にも女の子だから多少の手加減をしてほしい。
『!?』
骸さんに顎を掴まれて無理矢理目を合わされた。何故かわからないけど、目を合わせてはいけない気がする。でも、目を逸らせない。
「貴方にはもう並盛中は必要ありません。僕の隣にいればいいのです。」
『やだ、嫌です……っ、』
委員長−−−!
薄れゆう意識の中で、誰かが謝っているような声が聞こえた。その声の主は分からなかったけれど、とても悲しい声だった。