手放された腕章
「クフフ…、さぁ、これで貴女は僕の人形だ。」
『…。』
「花莉、貴女は誰のものですか?」
『私は骸様のものです。』
「いい子ですね。」
目が虚な従順な花莉に、骸は満足していた。愛おしげに髪に唇を落とし、まるで人形を愛でるかのように頬を撫でた。
「その制服は必要ありませんね。あちらに黒曜中の制服があるので着替えてきてください。」
『はい。』
花莉は奥の部屋へと進み、黒曜中の制服を見つける。ワイシャツのボタンに手をかけ、するりと脱ぎ捨てた。すると、風紀の文字が刺繍された腕章がふと目に入る。しかしそれは一瞬で、すぐに黒曜中の制服に着替え、骸の元へ戻っていった。
『骸様、着替え終わりました。』
「似合いますね。並盛中の制服などよりずっと。」
黒曜中の制服に着替えた花莉に満足した骸は彼女と共にソファーに腰をかけた。
「ボンゴレの体を手に入れたらマインドコントロールを解いてあげます。それまでは人形でいてください。」
『はい、骸様。』
骸の目的はボンゴレ10代目の体を手に入れること。その任務が終わった暁には、花莉のマインドコントロールを解き、時間をかけて心を手に入れようと考えていた。これからの行く末に心を躍らせながら、ボンゴレ10代目があぶり出されるのを待つのだった。
***
「えっ!!星影先輩も行方不明なんのかよ!!」
「らしいぞ。どうやら応接室に荷物だけ置いてあったらしい。校内を探してもどこにもいないから雲雀の奴を追いかけていったんじゃねーかって噂だ。」
「ええ!あの人普通の女の子だぞ!」
「もしかしたら人質に取られてるかもしれねーな。」
花莉が囚われている頃、綱吉、リボーン、獄寺、山本、ビアンキの五人は黒曜センターの奥へと足を進めていた。全員が花莉とは面識があり、彼女の無事を心配していた。
「花莉先輩、意外とガッツあるからなー。」
「バカなんだろうが。よえーくせにこんなところ来てたら承知しねぇ。」
「花莉は一般人だから心配だわ。怯えてなければいいけど。」
皆が心配しているのは、花莉は普通の一般人だということだ。この戦いに巻き込まれるべきではないと綱吉すら感じている。だが綱吉には何か嫌な予感がして仕方なかった。これから戦いが始まるという恐怖と、もし本当に彼女がここにいるのならば早く助けなければならないという気持ちが心を占めていた。
「早く行こう!」
そう言った綱吉に対し、リボーンは僅かに口角を上げた。リボーン自身も花莉の安否を気にしている。それは他の者達とは違う心配だった。しかしそれはまだ誰にも口外することは出来ないため、とにかく無事を祈るしかなかった。
「厄介なことになっちまったな。」
その呟きは誰の耳にも届くことはなかった。