欲しい言葉

「さぁ、どうしますか雲雀恭弥。」

クフフ、と笑う六道骸に対し、ジッと花莉を見つめる雲雀恭弥。花莉は変わらず三叉槍を自分の首にあてがっている。その瞳に光を宿さないまま。

「花莉。」

『…。』

「腕章はどこへやったの。」

「んなーー!こんな時に腕章のこと!?何考えてんのヒバリさん!」

「腕章を外して僕の目の前に現れるなんていい度胸だね。余程咬み殺されたいらしい。」

『っ、』

マインドコントロールされた花莉は雲雀の言葉にピクリと動いた。その様子にリボーンはニッと口角を上げる。

「こんなところで時間を無駄にしているおかげで普段の業務に全然手をつけられていない。君はそれをわかった上でここに来たんだ。それ相応の覚悟があるんだよね?」

『…、っ、』

「仕事が山ほど溜まってる。今日は帰れると思わないでよね。早くその似合わない制服を脱いで。帰るよ、星影花莉。」

『!!…あ、いいん、ちょう…っ、』

「何…!?」

「星影先輩が正気を取り戻した!」

カランと三叉槍が花莉の腕から滑り落ちる。彼女はマインドコントロールが解かれ、膝から崩れ落ちた。

『はぁ…はぁっ、なんか、すごく、嫌な言葉が聞こえて…、ぎゃっ、委員長!?なんかすごい怒ってます!?』

「へぇ、わかるんだ?」

いつもの調子の2人に、綱吉は安心して笑った。しかし油断はしていられない。何故ならまだ六道骸を倒してはいないからだ。雲雀は花莉に下がるように言い、トンファーを構えた。

「クフフ…花莉のマインドコントロールを解かれるとは思いませんでしたよ。彼女にはやはり時間をかけて奪う必要がありそうだ。」

「渡さないよ。」

「時間の無駄です。手っ取り早くすませましょう。」

骸の赤い目の数字が一へと変わると、再び桜が頭上に現れる。雲雀は目を見開き、ふらりと体を揺らした。

『委員長っ!』

余裕を含んだ笑みを浮かべる骸に対し、雲雀はトンファーの一撃を骸の腹に打ち込んだ。

「おや?」

「へへ…甘かったなシャマルからこいつを預かってきたのさ。サクラクラ病の処方箋だ。」

『獄寺君…っ!初めて君を尊敬したよ!!』

「なっ、初めてかよ!!ふざけんなバカ女!!」

サクラクラ病を克服した雲雀にはもう何も止めるものはなかった。骸に渾身の一撃を最後に打ち込み、骸はついに倒れた。

「ついにやったな。」

「お…、終わったんだ…。これで家に帰れるんだ!!」

『委員長!』

花莉は雲雀の傍へと駆け寄り、その体を支えた。雲雀は体を花莉に預け、完全に意識を失った。そんな雲雀を花莉はそっと床に寝かせ、その頬を撫でる。

『お疲れ様です、委員長…。』

「早く皆を病院に連れて行かなきゃ!」

「それなら心配ねーぞ。ボンゴレの優秀な医療チームがこっちに向かってる。」

「良かったっスね。」

「獄寺君無理しちゃダメだよ。」

「その医療チームは不要ですよ。」

脅威が去り、安心した束の間、その声は凛と響いた。その声の主は六道骸だった。彼の方を全員が向けば、銃口が嫌でも目に入ったのだった。

「何故なら生存者はいなくなるからです。」

「てめー!」

「ご、獄寺君!!」

「クフフフ…、」

綱吉達の方に向く銃口はゆっくりと骸のこめかみにあてがわれていく。その様子を見た花莉は、骸から目を離せなかった。

「Arrivederci。」

鳴り響く銃声は、終わりではなく始まりだったのだ。