Arrivederci
何度もやめてと叫んだのに、誰もやめてはくれなかった。痛い、苦しい、助けて。暴れても、もがいても、逃げることが出来ない。いっそ殺してくれと何度も願った。何故私が、皆が、こんな目に合わなきゃならないんだ。どうして、どうして、どうして−−−!
「花莉。それは貴女の過去じゃない。僕の過去に引きずられてはいけません。」
『ゆ、るせな、い…、』
「ええ、」
『悲しいです…骸さん………っ、』
「ええ……。貴女が握り締めていた僕の槍のカケラで、また夢が繋がってしまいました。まさか貴女が僕の過去に引きずられるとは思いませんでしたけど。」
私と骸さんはまた夢で繋がったようだ。私は芝生に寝転がっていて、その側を骸さんが座っていた。
『骸さんの過去………、ごめんなさい見てしまって…。』
「いいです。貴女に見て欲しかったのかもしれません…。」
骸さんもごろりと芝生に寝転がり、四肢を預けた。彼は遠い星空を眺めている。
『骸さんは…後悔してますか…?』
「いいえ、後悔などしません。僕のやったことは正しいと思ってますし、まだ諦めてもいません。まぁ強いて言うなら…、」
彼は私の方を向き、眉毛を下げて笑った。
「貴女を泣かせてしまったことは、後悔してますよ。」
『骸さん…、』
「泣かせたかったわけではないんです。少しだけ意地になっていました。僕の前に立ちはだかる貴女が煩わしかった。いや、沢田綱吉や雲雀恭弥が羨ましかったんですかね。」
『…、』
「貴女を手に入れたかった。しばらくは叶いそうもありませんが、またいずれ奪いに行きますよ。」
『えええ、あれ本気だったんですか。』
「勿論です。ああそうだ、その骸さんというのと敬語はやめていただきたい。僕と貴女は同じ年ですから。」
『………骸、くん?』
「クフフ…そう呼ばれるのは初めてかもしれませんね。悪くないです。」
彼は一度起き上がり、私の上へと覆いかぶさった。彼の手が私の頬を撫で、くすぐったさに身をよじる。
「槍のカケラ、持っていてください。必要になる時があるかもしれません。」
『うん。わかった。』
「花莉、僕のために悲しいと言ってくれてありがとうございます。」
骸君の指先が砂のように崩れて消えていく。ああ、時間なのだと悟った。
『骸君、また会える…?』
「ええ、いずれ…、Arrivederci…。」
彼は私の額にキスを落とし、消えていった。骸君のしたことは許せないけれど、いつか分かり合える日が来るといいと願った。
***
目を覚ますと病室にいた。他の人ほど怪我は酷くなかったけれど、鞭打ちのような状態になっていて二日間だけ入院した。皆より一足先に退院して、お見舞いに向かう。
『お邪魔します〜!』
「星影先輩!体大丈夫ですか!?」
『それはこっちの台詞だよ。山本君、獄寺君も大丈夫?』
「どうってことないっす!まさか本当に花莉先輩がいるとは思わなかったけどな!」
『ちょっとね、』
「大方何も考えずに来たんだろ。」
『獄寺君かっこよかったんだよー!!!私に、見んな…って言って手で隠してくれてねーーーー!!!さらには私が血を見ないように顔を動かしてくれてねーーーー!!!!!!やっさしかったなーーー!!!!!』
「ばっ!!てめぇ!!!わざとでけぇ声でっ、」
図星だったが少しカチンと来たので意地悪をしてみた。真っ赤になる獄寺君を見れたのでこれくらいにしてあげよう。流石に看護師さんにうるさいって怒られた。すみません。
『沢田君もかっこよかったんだよ。私のこと花莉、って呼んで。』
「あ、あの時は!!その、高ぶってて!すみません…、」
『ううん、むしろ呼んでほしいな。私も綱吉君って呼ぶから。』
「えええ!そんな急に…、」
「てめぇ10代目を困らせてんじゃねぇ!」
『獄寺君の下の名前なんだっけ。あ、隼人か。隼人君、そんなに怒らないで。』
「っんの、アマ…っ!!」
「花莉先輩、俺も名前で呼んでくださいよ。」
『えっ、あ、うん!武君ね。なんか皆意外と平気そうで良かった。』
私はお見舞いの品をそれぞれの場所は置いた。皆の表情はどこか安心感に満ちていて、スッキリとした顔だった。
「あ、あの花莉先輩。俺のせいで巻き込んで…、」
『ちっ、違うよ…!』
「え?」
『私は委員長を連れ戻しに行ったら偶然怪我をしただけ。何も見てないし、何も聞いてないよ。』
「でも…!」
『綱吉君、私はもう怖いのも痛いのも、もう嫌だなあ…なんて、』
「っ、すみません!」
もうこれ以上は話さないでほしいと圧をかけた。綱吉君には悪いけど私はもう巻き込まれたくないのが本音。出来れば平和に暮らしていたい。しょんぼりする綱吉君の傍に行き、頭を撫でた。
「え!?」
『あの時は、守ってくれてありがとう。本当にかっこよかった。』
「ええ!?」
ぷしゅう、と赤くなる綱吉君に思わず笑ってしまった。10代目をからかってんじゃねぇ!と隼人君に怒られたのでそそくさと病室を後にした。その後はフゥ太君とビアンキさんのお見舞いに向かい、最後に彼の元へ向かった。