止まぬ雷鳴
目の前の戦いを見て、見ることしか出来ない自分が嫌になった。巻き込まれたくない、怖いことなんて嫌だったのに。私にも力があったらいいのにと思う自分がいた。確実に彼等の世界に毒されている。平和が一番に決まってるのに。どうして私はこんなことを思ってしまうのだろう。自分で自分がわからなくなっていた。
『雨…、』
晴の対決から夜が明け、私は雨の中、学校に登校した。しかし学校に委員長の姿はなかった。どうやらディーノさんと何処かへ行ってしまったらしい。またこんな時に、とは思ったがいつまでも委員長を頼っているわけにはいかない。私はいつも通り授業を受けて、放課後は風紀の仕事に取り掛かった。
「失礼します。」
『京子ちゃん…どうしたの?』
応接室の扉をノックし、遠慮がちに顔を出したのは京子ちゃんだった。私は立ち上がり、彼女の側に寄った。
「あの、花莉先輩少し元気ないなって昨日思ったんです。それで何か出来ないかと思って…、」
『え、ごめん!気遣わせちゃって!』
「いえ、花莉先輩にはいつも良くしてもらってるので。クッキー焼いたんです。いつもより上手くいって、良かったら貰ってくれませんか?」
彼女から可愛くラッピングが施されたクッキーを手渡された。京子ちゃんは少し天然だが、純粋で可愛い女の子だ。綱吉君との繋がりでこうして仲良くなれた。
『ありがとう京子ちゃん。』
「いえ!私、いつでも花莉先輩の味方です。頼りないかもしれないけど、お話があればいつでも聞きます。だから無理しないでくださいね。」
何も関係ない京子ちゃんに気を遣わせてしまった自分が情けない。でも今は京子ちゃんの優しさに救われている。下ばかり向いている暇はないのだ。私は私ができることを精一杯やろう。
京子ちゃんが去った後、クッキーの甘みを味わいながら事務業務を行った。
***
午後23時、私達は雷の対決を見届けるために屋上へと訪れた。屋上には特殊な導体が張り巡らされているようで、雷が落ちれば何倍も増幅されて駆け巡るようになっていると審判は言った。ランボ君の対戦相手は二時間も前からスタンバイしていたようで、すごい形相でこちらを睨んでいた。そして、その後ろにヴァリアーの他のメンバーが訪れる。
「よし沢田!いつものいくぞ!」
「え…?いつもの…?」
「な!!?」
『あぁ…、』
「ランボーーー!ファイッ!!」
「オーーー!!!」
「『おーー…、』」
私は諦めたように円陣に入り、恥ずかしさの中でランボ君に激励を送った。沢田君は最後までランボ君に行かなくていいと言っていた。ランボ君はまだ5歳だ。こんなに小さな子どもまで戦わなければならないなんておかしい。ランボ君はよくわかってないようで陽気にフィールドへ入っていった。
「それでは雷のリング、レヴィ・ア・タンVS.ランボ。勝負開始!!」
勝負が始まって直後、雷が避雷針へと落ちた。何倍にも膨れ上がった電流がランボ君に襲いかかる。
『っ、ランボ君!!』
「ランボぉ!!」
一度はばたりと倒れたランボ君だったが、彼は泣きながら起き上がった。あれだけの電流を受けて泣くだけで済むなんて。ランボ君は電気を倒しやすい皮膚のようだ。電撃皮膚<エレットゥリコ・クオイオ>と言うらしい。
しかし安心したのを束の間、レヴィさんは容赦なくランボ君を攻撃する。もうダメだ、とぎゅっと目を瞑った瞬間爆発が起きる。もくもくと上がる煙からは餃子を食べている青年が現れた。
「う"おぉい!!なんだありゃあ!?部外者がいるぜぇ!!」
「いいえ、彼は10年バズーカにより召喚されたリング保持者の10年後の姿です。」
「よって彼を候補者と認め、勝負を続行します。」
また奇怪なものが出てきたな。未来の自分と入れ替わるなんて。しかし今の状況にはありがたかった。5歳のランボ君が戦うより、15歳のランボ君が戦ってくれる方ずっとマシだ。
だが、レヴィさんはそんなにも簡単に倒せる相手ではなかった。15歳のランボ君ですら手が出ない。電撃を受けて倒れたランボ君の肩にレヴィさんの尖った傘が刺さる。15歳のランボは再び10年バズーカを握り、自分へと撃った。すると、必然的に現れるのは25歳のランボ君だった。
「やれやれこの現象、夢でないとすればずいぶん久しぶりに10年バズーカで過去へ来たようだ。」
「ホントにアホ牛か。」
「なんだかランボ…頼もしいよ…、」
「あなた達にまた会えるとは。懐かしい…なんて懐かしい面々…、それに、」
25歳のランボ君は私を見て、寂しそうに笑った。
「貴女は昔から泣きそうな顔をしているんですね。花莉さん。」
『え…、』
彼の言っていることはよくわからなかった。25歳のランボ君はすぐにレヴィさんに向き直り、戦闘を開始する。20年の年月をかけて成長した彼は強かった。レヴィの攻撃をもろともしない。そんな強さがあった。もう勝負がつく、そんな大事な瞬間にボフンと爆発が起こる。電撃の中で苦しむ5歳のランボ君が戻ってきた。最悪のタイミングで、25歳から5歳に戻ってしまったのだ。気を失ったランボ君はもう戦えない。
「いかん!!」
「あんにゃろ!」
「まて、手を出せば失格になるぞ。」
笹川君、隼人君、武君がランボ君を助けようとしたがそれはできなかった。手助けをすれば皆失格になってしまう。でもそれはリングを持って戦う者だけ。だったら私ができることなんて一つしかないじゃないか。
「花莉先輩!?」
「お、おい!!何やってんだバカ女!」
「しししっ、おもしれーあの女。」
「あんなガキのためにバカだね。」
気がつけば、私はランボ君を抱き締めていた。もういい、こんなに幼い子が傷つく必要なんてない。自分より幼い子を守るのが、年上の役目だ。
「退け、邪魔だ。」
『退きません…っ、もう勝負はついてます!』
「花莉様、今は勝負の最中です。お下がりください。」
『なんで…っ、勝負はもうついてるでしょ!?ランボ君はもう戦えない!』
「チェルベッロ、殺さなければいいな。」
「…、」
無言は肯定の意。それくらいバカでもわかる。後悔はしてない。だって私が守らなくて誰が守るの。今朝誓ったばかりだもの。私は私のできることをする。
「星空の娘だかなんだか知らんが、ボスを選ばなかったお前が気に食わん。」
『うあっ!!』
彼の蹴りが思い切り横っ腹に入る。骨がミシリと音を立てた気がした。大丈夫、時間が経てば終わるはず。ランボ君だけは守らなきゃ。
『あぁっ!!…がはっ!』
「花莉先輩!くっ…、」
「どこへいくんだ?失格になるぞ。」
「わかってる…、でも!俺…ランボと花莉先輩を守らなきゃ!」
「…、しょーがねー奴だな。」
止まらない暴力に気を失いそうだった。今気を失ったら、私はこの子を手放してしまう。ぎゅっとランボ君を抱き締めて、レヴィさんを睨んだ。
「生意気な女だ。」
『全然、効かない、こんな、へなちょこな、攻撃…、』
「ぬ!?貴様…っ、」
『貴方、なんて、委員長の…足元にも及ばない!!!』
「っ、死ね!!!」
「う"ぉぉい!!!やめろぉレヴィ!」
委員長のプライドの高さがうつってしまったのだろうか。前までの私なら土下座をして許しを請うはずだ。でも、こんな人に許しを請うなんて嫌だ。恥ずかしくて委員長の隣に立てない。私は堂々と委員長の隣に立てる自分でいたい−−−!!
ぎゅっと目を瞑り、流石に死を覚悟した。その直後、避雷針が私とレヴィさんの間に倒れてくる。
「目の前で大事な仲間を失ったら…死んでも死にきれねぇ。」
『綱、吉くん…、』
雷雨の中、優しく灯る炎に涙が溢れた。