名ばかりのお飾り

大きな炎が暗い夜に負けないくらい輝いていた。眉間にしわを寄せ、拳を握る彼がこんなにも心強く感じている。

「…いくら大事だって言われても…ボンゴレリングだとか…次期ボスの座だとか…そんなもののために俺は戦えない。でも…友達が…仲間が傷つくのは嫌なんだ!!」

彼の強い言葉にまた胸の辺りが熱くなるのを感じた。この間よりずっと熱い。何かが私を呼んでいるような、そんな感じがする。

「ほざくな。」

「がっ!!うわああ!」

何らかの力で攻撃を受けた綱吉君は吹っ飛ばされてしまう。何が起こったのかわからなかった。

「あっ、あれは…、」

「XANXUS!」

どうやらXANXUSさんがこの場を訪れたらしい。体がもう動かずそちらを見ることは出来なかった。

「なんだその目は…まさかお前、本気で俺を倒して後継者になれると思ってんのか?」

「そんなことは思ってないよ…俺はただ…!この戦いで仲間を誰一人失いたくないんだ!!」

「そうか…てめぇ!!」

XANXUSさんに制止の声が入るが、何か鈍い音がし、そしてどしゃりと落ちる音が聞こえた。見てはいけない気がした。XANXUSさんは何か愉快で笑っているらしい。笑い声も聞こえてきた。そして、雷の対決のジャッジが下る。

「今回の守護者対決は沢田氏の妨害によりレヴィ・ア・タンの勝利とし、雷のリングならびに大空のリングはヴァリアー側のものとなります。」

フィールドに入っていない綱吉君も失格となってしまった。フィールドの破損は勝負の妨害と見なされるようだ。

「花莉様はただ今動けませんので、リングをはめていただくことは出来ません。」

「XANXUS様、リングです。」

雷のリングも大空のリングもヴァリアー側の手に渡ってしまった。これから一体どうなってしまうのだろうか。

「完全な大空のリングがXANXUS様の手に渡りましたので、花莉様はヴァリアー側へとついていただきます。」

『…、』

「カス鮫、あいつを拾ってこい。」

「う"ぉぉい!!俺かぁ!!」

その声の直後、私の前にスクアーロさんがしゃがみ、私の体を持ち上げる。私はその直前にランボ君を離した。

「あぁ!花莉先輩!!」

「何すんだ!!そいつを離せ!」

「俺のものだ。どうしようがお前らには関係ねぇ。」

もう、いいかな。負けてしまったけど勝負はついた。ランボ君も大怪我をしてしまったけど命までは奪われなかった。もう意識を手放してもいいだろう。これからどうなってしまうのかなんてわからない。ああ、でも、もう学校に行けなくなるのは嫌だなぁ。委員長に会えなくなってしまうのは、嫌だなぁ。そんなことを考えているうちに私の意識は闇へと落ちていった。


***


『ん…、』

重たい瞼を開ければ、見覚えのない天井が広がっていた。結局私は気を失ってしまったようだ。

『いたた、』

体中に痛みを感じるが、どうやら治療をしてくれたようで屋上にいた頃よりは少しマシになっている。ここは一体どこなのだろうか。

「花莉様、お目覚めでしょうか。」

『うわっ!!は、はい!』

「お目覚めになられたらXANXUS様に連れてくるよう命じられております。またコンタクトを外させろ、と承りました。」

『…わかりました。』

メイドのような人が私の着替え手伝ってくれたのだが、シンプルでシックなドレスを着せられた。ドレスコードというものなのだろうか。こんな包帯だらけでドレスなんて見苦しいだけだろうに。私は心の中でブツブツと文句を言いながらコンタクトを外した。メイドさんに連れられて歩くが本当に体が痛い。あんなに蹴られて普通に歩けるほど私の体は頑丈に出来ていないのだ。

『あの、今何時ですか?』

「午前2時を回りました。」

『夜中の2時…、はぁ…、』

いっそのこと寝たふりをしておけばよかった。まだあの戦いが終わって全然時間が経っていないではないか。

「XANXUS様、連れてまいりました。」

「入れ。」

メイドさんが扉を開けると、中は私の部屋の何倍もある広さの部屋だった。その奥でヴァリアーの方々が勢ぞろいしている。ルッスーリアさんはいないけれど。

「来い。」

後ろで扉が閉まる音がする。私はゆっくりと歩みを進め、彼らの前に立つ。履きなれないヒールを履かされて今にも転びそうだ。

「しししっ、包帯だらけじゃん。」

「あれだけの攻撃を素人が受けたんだ。これくらいで済んでラッキーな方だよ。」

目の隠れた二人は言いたい放題だな。私はそんな話し声を無視し、目の前でつまらなさそうに座るXANXUSさんを見据えた。

「ボスにガンを飛ばすとは!!やはり許さん!!」

「るせぇ。」

「も、申し訳ありません。」

「あの餓鬼を庇ったそうだな。理由を言ってみろ。」

ランボ君を庇った理由を言えだなんて、何故わかりきったことを聞くのだろうか。この人の求める答えを私は持ち合わせていないのに。

『貴方が嫌いな理由、です…。』

「あ?」

『助けたかった、あんな幼い子が傷つくところなんて見たくなかった。それだけです…、』

「お前、その地位が奪われるとは考えなかったのか。お前の力を持ってすれば、この世界を手にできるんだぞ。」

地位、か。それは何の役にも立たず仲間が傷つくのを黙って見ていることなの?この瞳を見せびらかして、もてはやされ、讃えられていろと?なんだかXANXUSさんの言うことにカチンと来てしまい、ムッと眉間にしわを寄せた。

『地位…?それは星空の娘とかいうものですか?そんなのクソの役にも立ちません。』

「ひゅー、言うねぇ。」

『私は…誰かが傷つくところを黙って見ているだけの、名ばかりのお飾りなんていらない…!こんな地位、欲しけりゃくれてやりますよ!!』

全て言い切った後に我にかえった。ダメだ、確実に冷静ではなくなっていた。アドレナリンが出て興奮状態だったんだ。正気だったら目の前のこの人にこんな大口を叩けるわけがない。今度こそ本当に終わった。ああ、一足先に天国に行くことになろうとは。

「ぶはっ、ははは!おい、女…いや、花莉と言ったな。」

『…、』

XANXUSさんは私に近付いてくる。もう後戻りは出来ないので、逃げ腰になるのもやめた。私は顔を上げ、彼を見上げた。

「その目、悪くねぇ。」

『う、嬉しくないです…。』

「はっ、時期に身も心も俺に捧げたいと言わせてやる。」

『んむっ!?』

XANXUSさんは私の唇に手の甲を押し付けた。ゴツゴツして硬いし何がしたいのかよくわからない。

「忠誠の口付けもな。」

勝ち誇ったように笑い、部屋を去るXANXUSさん。私は何が起こったのか分からず思わずスクアーロさんを見た。何故か目を逸らされた。そして目が隠れている二人を見た。二人にも顔を背けられた。最後にレヴィさんを見た。とても怒っていた。

『ん?んん?』

手の甲に口付けの意味を、しばらくした後にスクアーロさんに教えてもらい、与えられた部屋のベッドの枕に八つ当たりしたのは言うまでもない。

『誰が忠誠なんて誓うもんか…!!』