王子様と赤ちゃんと剣士と

何かの違和感を感じて、重い瞼を開けた。目を開けると、何故か金色のさらりとした髪が目の前に見える。

「あ、起きちゃった。」

「乱暴過ぎだよベル。今まで起きなかったのが不思議なくらい。」

目の前で目の隠れている二人が何やら話している。覚醒してない頭にその会話はよく入ってこなかった。それよりも体に何か重いものが乗っている。そのせいで昨日の傷がとても痛い。

「しししっ、まだボーッとしてんのかよ。すげーなこいつ。もう少しひん剥いてみるか。」

「もういいよ。大体の品定めは出来たしね。」

金髪の彼は私の胸元に手をかける。素肌に指を這わせ、ツ、となぞった。

『ん!?ちょ、ぎゃっ!なんでこんなに浴衣脱げてるの!?』

「脱がした。」

しれっととんでもないことを言う金髪。いつのまにか私が着ていた浴衣の胸元ははだけており、下着が丸見えになっていた。私は上半身を起こし、胸元を急いで整えた。金髪の彼は私の上に跨っているではないか。どうりで重たいわけだ。

「うーん、目と他を分けた方が売れそうかと思ったけど、その必要はなさそう。セット売りの方が断然いいね。」

『な、なんの話です!?』

「君は高く売れるよ。目だけしか価値はないかと思ったけど、君は発育が良いし、まぁまぁ綺麗だから相当の値がつく。」

『えええ、私売られるんですか?』

「できることなら売りたいよ。まぁ昨日のボスの様子じゃダメだろうけど。」

「お前ボスに気に入られるとかすげーじゃん。レヴィは嫉妬でお前のこと殺しそうだけど。」

『背後には気をつけますね。無駄でしょうけど。』

背後に気をつけたところで素人の私が彼に勝てるわけがないのだ。しかし勝手に嫉妬されて殺されても困る。私ははぁ、とため息をつき、前髪を少し整えた。

『えっと、えーーーーと、名前なんでしたっけ。』

「王子の名前くらい把握しとけよ。」

『へー、王子君って言うんですね。』

「ちげーよ。何お前むかつくな。サボテンにすんぞ。」

『ひっ、何ですかナイフ出さないでくださいよ!』

「花莉、ベルフェゴールって言うんだ。彼は生粋の王族でね。」

『ああ、そういうことですが。王子様…王子様かぁ…。』

品のかけらもないけれど、頭に乗ってる王冠が王子の証なのだろうか。だが、何故王子様がヴァリアーに入っているのか疑問が浮かんだ。

「ベル様って呼べよな。」

『はぁ、じゃあベル様。そこどいてくれませんか。』

「嫌だ。どかねー。」

『えーと、』

「マーモンだよ。」

『マーモン君。ベル様をどうにかしてほしいな。』

「僕に頼みごとをするならちゃんとお金を持っておいで。高くつくからね。」

『え、もしかして私初日からいじめられてる?』

「「暇つぶし。」」

『泣きそう。』

しばらく彼等の話し相手、というかおもちゃになった。解放されたのは起床して一時間後だった。彼等が満足して出て行った後、メイドさんが私の着替えを持ってきてくれた。着替えといっても制服だけれど。綺麗に洗濯され、ぴったり畳んである。腕章もなんだか綺麗になってるような。昨夜の着慣れないドレスを着るより制服の方が落ち着く。着替え終わった後は朝食を済ませて自室へと戻った。やることがなくて暇だ。風紀委員の仕事をしたいけれど、学校に行けないのでそれは叶わない。

『委員長どうしてるかなぁ。』

高級なテーブルに突っ伏し、ため息をこぼした。最近ため息ばかりついている気がする。ため息をつけば幸せが逃げていくというが、今は逃げていく幸せがない。早くこの戦いが終わってほしい。

「う"ぉぉい!!!いるかぁ花莉!!」

『あ、破廉恥剣士さん。』

「スクアーロだぁ!!てめぇいい加減にしねーとおろすぞぉ!!」

ノックもせず勢いよく部屋へ入ってきたスクアーロさん。私が着替え中だったらどうしてたのだろうか。胸を揉まれ、着替えも見られては本当に嫁に行けなくなる。まぁベル様とマーモン君には胸元をがっつり見られたけれど。

『何かご用ですか…?』

そういう時彼は私の顎を思い切り掴んで上にあげた。首がぴきんと音を立てた気がする。

『ちょ、今、首…首やっちゃった気がするんですが…、』

「繋がってるから安心しろぉ。」

『そういうことではなく!!』

彼は私の目をジッと見つめる。ここにはコンタクトがないので常に裸眼でなければならない。この目を見られるのは嫌いなので私はぎゅっと目を瞑る。

「開けろぉ!」

『目が乾いてきたので無理です。あああ、カピカピになってしおれそう。…あいたたた!無理矢理開けさせないでくださいよ!』

「すまねぇなぁ。こんなやり方しか知らねぇ。」

『ぎゃー!わかりました、開けますから!』

ぎゅっと閉じた瞼をスクアーロさんが無理矢理開こうとするもので危うく瞼が再起不能になるところだった。一体なんなんだ。何故彼は私の目を見たがるんだ。

「あの時は気づかなかったが、まさかこんな目をもっているとはな。」

『一生気付かれたくなかったですね。』

「恨んでるのかぁ。この目を。」

『そりゃあもう。この目さえ無ければこんな怖いことに巻き込まれず、楽しい学校生活を送れたはずでした。…まぁ、よく考えたら悪いことばかりじゃなかったのかなって思いますけどね。』

「…、」

『この目がなかったら、綱吉君や皆に会えませんでしたから。きっと、委員長にも出会えなかった。そう思ったら1mmくらいこの目に感謝できるようなできないような。』

「どっちだぁ!!」

『まだ好きにはなれないですね。』

そう言うと、彼は私の顎から手を離した。結局彼が何をしたかったのかはよくわからない。さらりとした銀髪が光に当たってキラキラと輝いていて綺麗だった。

『あ、そういえば、』

「あ"ぁ?」

『スクアーロさん、昨日レヴィさんが私にとどめを刺そうとした時止めてくれましたよね?』

「なっ!?」

『やっさしいなぁスクアーロさん。』

「う"おぉい!!あれはてめぇが星空の娘だからだぁ!!お前に何かあればXANXUSがボスになれねぇだろうがぁ!!」

顔を少し赤くして怒る彼に笑いそうになってしまった。でも、私の耳にはっきり届いてしまったんだから仕方ないだろう。

『スクアーロさん、止めてくれてありがとうございました。』

「てめぇが星空の娘だからって言ってんだろーがぁ!」

『それでも、嬉しかったんですよ。感謝の言葉くらい素直に受け取ってください。』

「………ちっ、」

スクアーロさんはバツが悪そうな表情をして舌打ちをした。普段はこうやって感謝されることも少ないんだろうな。

「おい、」

『はい?うわ、』

彼は私の腕を引き、その勢いで椅子から立ち上がらされた。そして、瞼に柔らかな感触を感じる。

「その目、悪くはねぇ。」

『なっ、え、なんでキス…っ!?』

「はっ、大人をからかった罰だなぁ!!100年はえーぞぉ!」

へなへなと膝の力が抜け、座り込む私を笑いながら部屋から出て行ったスクアーロさんの背中を、私は見つめることしか出来ないのだった。

『やっぱり破廉恥剣士っ!!』