嵐が去れば
月が登り、3日目の勝負が始まろうとしていた。私はヴァリアーに連れられ、並中へと到着する。今度はヴァリアー側でこの戦いを見なければならない。あまり気持ちのいいものではなかった。
「花莉先輩!大丈夫ですか!?怪我は…!」
『大丈夫だよ。ありがとう綱吉君。』
「おい花莉。お前今こっち側だろ。馴れ合ってんなよ。」
『ベル様暑い、くっつかないでくださいよ。』
「やだ。俺王子だもん。」
ベル様は私を後ろから抱き込み、顎を私の頭に乗っけている。本当に暑いからやめてほしい。
「花莉様、前回勝者にリングをはめておりませんので、この場ではめていただきます。」
『え"っ!』
「ふん、さっさとはめろ。」
レヴィさんは私にリングを投げ、手を出した。とても睨まれながら見下ろされてる。だが私も負けじとレヴィさんを睨みながらリングをはめた。
「なんか花莉先輩すごい睨んでるけど!?」
「ハハッ!やっぱガッツあるなー花莉先輩!」
「うむ!さすがだぞ星影!」
褒められているが嬉しくはない。そういえばもうすぐ11時を回ると言うのに隼人君がまだ来ていない。間に合うのだろうか、と心配したがギリギリの時間で間に合った。
「今宵のフィールドは校舎の3階全てです。もちろんこの棟とつながる東棟も含まれ、廊下だけではなくこの階にある全ての教室を含みます。」
「ただし、」
直後、私達の目の前で強風が吹き、窓ガラスが割れ、教室の机や椅子が吹き飛んだ。
『ひぃっ!!なんてことを…!!』
きっと直るんだろうけど、いや直してもらわなければ困る。こんなところ委員長が見たら問答無用で全員咬み殺される。想像しただけでも鳥肌がたった。
ハリケーンタービンという突風を発生させる装置が今の現象を引き起こしたようだ。試合開始から15分後にどちらかが嵐のリングを持たなければ、3階のいたるところに設置されたハリケーンタービンが順次爆発する。勝負がつかなければ二人とも死んでしまうのだ。
「何だ?今のガラスの音は。ケガ人はいねーか?」
突然現れた並中の校医、シャマル先生は審判の胸を揉み、顔面を肘打ちされていた。シャマル先生がここにいるということは彼も関係者なのだろうか。
「花莉ちゃーん!具合が悪くなったら俺のところおいでー!花莉ちゃんの為に献身的に看病するからな!」
『結構です。』
「何してんだよおめーは!!」
沢田君が委員長に咬み殺された時、最初は保健室に連れて行ってあげたのだが、シャマル先生のスキンシップが酷くて途中から辞めた。その後は隼人君に頼んで連れて行ってもらってる。
綱吉君達は円陣を組んでいた。隼人君は嫌がっていたが、綱吉君の言葉で気合を入れて円陣を組む様子が見られた。私も小さな声でオー!と言ったらスクアーロさんに怒られた。酷い。
「お前なんか俺に言葉かけろよ。」
『マーモン君にパスします。』
「嫌だよ。」
「お前あとでマジ覚えてろよ。」
「君たぶん半殺しは覚悟しておいた方がいいね。」
『えええ。』
ベル様は中央へと行き、私達は観覧席で勝負の様子をモニターで見ることになった。今度は妨害がないように赤外線感知器のレーザーが用意されている。そう何度も妨害なんてしたら私の身がもたない。
「それでは嵐のリング、ベルフェゴールVS.獄寺隼人。勝負開始!!」
戦いは隼人君のダイナマイトから始まった。隼人君はダイナマイト使い、ベル様はナイフ使い。確実に大怪我をするのが目に見えていた。
隼人君のダイナマイトがベル様に当たらない。ベル様は気流を読み、ナイフをその気流に乗せて隼人君を攻撃していた。隼人君の傷は増えているのに、ベル様は無傷。隼人君、頑張れ。そう心から祈った。
無数のナイフが隼人君に襲いかかるが、それは隼人君に当たるのではなく、人体模型に全て刺さっていた。どうやらベル様はワイヤーを隼人君につけていたようだ。それを介してナイフは隼人君に向かっていた。そして、隼人君はまたダイナマイトをベル様に投げた。今度は普通のダイナマイトではない。方向転換するダイナマイトだった。それはベル様に向かっていき、爆発をした。
『っ、』
いくら敵とはいえあんな攻撃を受けるところを見て喜べるわけがない。彼は無事なのだろうか。
煙の中でベル様は笑っていた。まるで子どものように。ベル様は自分の血を見ると興奮してしまうらしい。血を流し、無邪気に笑う彼を見てゾッとする。
しなやかな身のこなしで、隼人君の攻撃を避けるベル様。ナイフを投げるが隼人君には当たらない。しかし何故か隼人君は傷ついた。ベル様の怒涛の攻撃から逃げるように、隼人君は図書室へ逃げ込む。どんどん隼人君は傷を増やし、最後にはピタリと動かなくなった。
「モニターではかすかにしか見えてないけど、彼のまわりには…鋭利なワイヤーがはりめぐらされている。」
隼人君がナイフを触っていないのに傷が付くのはワイヤーに触れていたからだった。しかしそれに気付いた隼人君は自分の周りを爆発させ、ワイヤーをたわませた。そしてそのワイヤを伝って、ダイナマイトがベル様に迫っていく。
「これが嵐の守護者の怒涛の攻めだぜ。…これでダメ押しだぜ!」
凄まじい数のダイナマイトがベル様に襲いかかり、煙の中で彼は倒れていた。隼人君がベル様のリングを取ろうとすると、ベル様は隼人君のリングに手を掛けようとした。二人で取っ組み合っているうちにタービンが爆発する時間になってしまう。徐々に爆発は近づき、もうすぐ彼らのいる図書室まで届いてしまう。
「リングを敵に渡して引きあげろ隼人!!こんなもんでくたばるなんてバカげてる!戻れ!」
シャマル先生は隼人君に対して言葉をかけるが、彼は勝利にこだわっていた。まだベル様とリングを取り合っている。
『隼人君!!戻って!!』
「隼人!!修行に入る前に教えたことを忘れたのか!!」
「…ここは死んでも引き下がれねぇ!」
「『ふざけるな!!』」
「!!」
『そんなこと、綱吉君が喜ぶわけないっ!!命以上に大切なものなんてないんだよ…!何のために戦ってるの…っ!』
「またみんなで雪合戦するんだ!花火見るんだ!だから戦うんだ!だから強くなるんだ!またみんなで笑いたいのに、君が死んだら意味がないじゃないか!!」
「10代目…花莉…、」
機械音は無情にも鳴り響き、図書室のタービンは爆発する。リングなんかのために命を張るなんて。隼人君が譲れない気持ちがわからないわけじゃない。それでも、リングを捨てて戻ってきてほしかった。
私は赤外線センサーが止まっているのを確認し、飛び出した。煙をかき分けて綱吉君の元へと行く。すると、隼人君の名前を呼ぶ声が聞こえた。煙の先にはボロボロになった隼人君が廊下に座り込んでいた。
『隼人君…っ!!』
「…んだよ、」
『よ、がっだ…よがっだあ"ぁぁ…!』
「なぁっ!お、おい、泣くな!…お前と10代目の声が…聞こえたんだよ…。」
『ひっく、うぅ…戻ってきてくれて、ありがとう…っ!』
「ばーか、お前のためじゃないっての。10代目と花火が見たかっただけだ…。」
私の頬に流れる涙を指でそっと拭う隼人君。生きていてくれてよかった。ちゃんと綱吉君の言葉が届いてたんだね。私は隼人君の手をそっと握りしめた。
「嵐のリングはベルフェゴールのものとなりましたので、この勝負の勝者はベルフェゴールとします。」
「う"ぉぉい、笑える結末だったなぁ。これでいよいよ貴様らの命は風前の灯だぁ!」
「くっ、」
「それに未だ君達の霧と雲のリング保持者は現れないじゃないか。出場者がいなくて不戦勝なんてオチじゃないだろうな。」
そういえば委員長もこの間リングを持っていた。あのリングはボンゴレリングだったのだろうか。彼とは数日連絡を取っていないし、今どこにいるのだろうか。
「それでは次の対戦カード発表します。明晩の勝負は雨の守護者の勝負です。」
雨となると武君とスクアーロさんだ。 スクアーロさんはやっと出番だと嬉しそうだ。武君も臆せず、いつもの笑顔で笑っている。
「失礼する!レヴィ隊長!!校内に何者かが侵入しました!雷撃隊が次々とやられています!!」
「何!?」
何故か、その報告は私の全身の熱を奪うようだった。なんだこの嫌な予感は。何かが起こっている。レヴィさんの部隊がやられているならヴァリアー側の人間ではない。だとしたらこちら側の人間だ。
『まさか…、』
私は腕章をギュッと握り、嫌な予感が当たらぬよう願ったのだった。