奪われないための選択

散々泣いた後、私は自室にこもっていた。人が死んだとは思えないくらい綺麗になっていて、なんだか虚しい気持ちになった。誰かに会う気分にはなれなかったため、少し気が引けたが自室で大人しくしている。昼食も夕食も食べれなかった。お腹も空かないこの状況に、一周回って笑えてきた。ベッドに四肢を投げ出し、天井を見上げているうちに時間は経ち、時計の針は20時を刺そうとしている。あと3時間後にはまた戦いが始まってしまう。

『やだ………………、』

ぎゅうと枕を抱きしめ、ベッドに無造作に投げ捨ててある携帯が光っていることに気づく。携帯を開けば幼馴染からメールが来ていた。

「[この間擦り寄ってきた猫がお腹を見せてくれたんだ。花莉にもお裾分け。]」

幼馴染からのメールにはお腹を見せて寝転がる可愛い猫の写真が添付されていた。なんだか無性に泣きたくなってしまう。助けを求めたら幼馴染は飛んできてくれるだろうか。私は幼馴染に、またお裾分けしてね、と返信をして携帯を置いた。

「う"おぉい!!!!」

『!!』

思い切り扉を開けて勢いよく部屋に入ってきたのはスクアーロさんだった。だが私はどうも動く気分になれない。失礼とはわかっているのだが、ズカズカと近づいてくるスクアーロさんを目だけで追った。

「いつまでジメジメ閉じこもってんだ餓鬼がぁ!!」

『今日はジメジメしていたい気分なんです…。』

「うぜーぞぉ!!」

『…何の用なんですか。まだ並盛中に行く時間じゃないですよね。』

私は上半身を起こし、ベッドの上に座る形となった。こんな時でもうるさいスクアーロさんには早く出て行ってほしい。今は誰かと話したいという気分にはなれないのだ。

「お前には言っておこうと思ってなぁ。」

『な、なんですか…?』

「俺は刀小僧を殺すぞぉ。」

『っ!?』

堂々と宣告されたその言葉は、今の私の心を乱すには十分すぎた。私はスクアーロさんのジャケットを握る。

『やめてください…っ、武君を殺さないで…!』

「何甘いこと言ってやがる。この戦いが始まった頃からわかってただろーが。」

『っ、やだ…っ、絶対嫌…っ!!』

「う"お"ぉい!!!」

『っ、』

彼に両手を掴まれ、そのままベッドへ押し倒される。掴まれた手が痛くて思わず顔を歪めた。

「いい加減覚悟を決めろぉ。」

『何の覚悟ですか…!?いつ人が死んでも泣かないように覚悟しろってこと…!?そんな覚悟だったらしたくありません!!』

「いつまで現実から目をそらすつもりだぁ!!よえーやつは死ぬ!!この世界はそうやって成り立ってんだ!!」

そんなこと、わかってる。それでも、私はこの戦いで誰も失いたくない。そう思うことすら許されないのだろうか。

『…っ、』

「!」

『死ぬとか…っ、簡単に言わないでください…っ、』

何を言われても命が簡単に奪われていくことに慣れたくない。慣れてしまったら私はもう私ではなくなってしまう。私に救える命なんてない。それでも、簡単に奪われていく命を眺めているだけなんてできないよ。

「ちっ…、んなことで泣くなぁ。」

『スクアーロさんがいじめるから…、』

「餓鬼か。いじめてねぇ。」

『まだ餓鬼です…、15歳ですもん…。』

「ハッ、そうかよぉ。」

スクアーロさんは私の手を引いて体を起こすのを手伝ってくれた。そして私の頬に手を滑らせ、涙を拭いてくれる。

『武君を殺さないでください。』

「…、」

『スクアーロさんも、死なないでください…。』

「う"お"ぉい。俺が死ぬはずねーだろぉ。」

大きな手で私の頭をぐしゃぐしゃと撫でる彼。その表情はバツが悪そうな表情をしていた。彼はきっと武君を殺すつもりで戦うと思う。私にはどうにもできないことだ。

『スクアーロさん負ければいいのに。』

「あ"ぁ!?」

『負ければいいのに。』

「2回も言ってんじゃねぇぞぉ!!」

私は武君の勝利を願うだろう。
それがきっと、どちらの命も奪われない選択なのだから。